※本インタビューは2021年11月1日(発表日)に実施されました。
――買ったものは瞬時に答えられても、どのように購入したのかまでを答えられる人は、そう多くはないだろう。現金? 電子マネー? クレジットカード? それともポイント? 多様な決済手段に溢れる時代を生きている私たちにとって、それは他よりも少しだけ「便利」で「勝手が良いもの」であればいいのかもしれない。
「何を買うか」も大事。しかし、それと同じくらい「どのように買うか」にも、自分らしく在ることはできないだろうか。しかも、それが自分だけでなく、社会にも還元されたら、どうだろう。
「使うたびに、社会を前進させるカード」――この度、そんなコピーを掲げたクレジットカード(へラルボニーエポスカード)を丸井グループとへラルボニーが発表した。これはお買い物での利用金額に応じた加算ポイントから、利用金額の0.1%分を、お客さまに代わってエポスカードがへラルボニーに還元するというもの。クレジットカードといえば「ポイント還元」を注視しがちだが、本カードのユニークネスは「社会還元」されるという点にある。
※本インタビューは2021年11月1日(発表日)に実施されました。
――まずは「ヘラルボニーエポスカード」の発表を迎えた今の率直な心境から伺いたいです。
米本:今は素直にホッとしています。エポスカードとしては、カードのご利用を通じた寄付は初めての試みだったので、新たな仕組みづくりから手掛ける必要があり、挑戦の連続でした。ヘラルボニーさんと組むことで、私自身、クレジットカードのみならず、社会について考えるきっかけになったと思います。
豊田:私も率直に嬉しい気持ちでいっぱいです。松田さんをはじめ、ヘラルボニーの皆さんにはタイトなスケジュールのなか色々とご調整いただき、今日を無事に迎えることができました。ありがとうございます。
――松田さんはいかがですか?
松田:今日を迎えられたことをすごく嬉しく思っています。僕もクレジットカードを持っていて、いろいろなシーンで使っているんですけど、何かを手に入れる喜びだけでなく、その一部が社会の役に立つというのは嬉しい気持ちになりますよね。お金だけでなく、気持ちや想いの流れが可視化されるようなクレジットカードだと思います。身近にする消費活動と、社会との接点をエポスさんとつくれてとても嬉しく思っています。
――早速、店頭でカードの申し込みをされているお客さまもいらっしゃいましたよね。
米本:そうなんです。すごく嬉しかったですね。ちゃんとお客さまに伝わっているなと…。このクレジットカードを持っていただくお客さまは、このプロジェクトに共感いただいていると思うんです。長いお付き合いをしていただきたいという想いが根本にあるカードで、その想いがきちんと伝わっている実感を持てました。
豊田:私も同感です。「自分も社会のために、何か少しでも役に立ちたい」と考えているお客さまに、「きちんと伝わっている」と思えました。目の前でご入会いただけたのはとても嬉しかったです。デザインも好評でしたね。
松田:デザインを褒めてもらえるのがやっぱり嬉しいですね。ちなみに今日の発表を終えて、今回のカードデザインを担当したShimaokaさん(作家)のお母さんが「人生のピークの日です」とおっしゃっていました。作家、ビジネスサイド、そして社会…そんな幸せの循環が生まれるようなプロジェクトが、どんどん広がればいいなと思えた日になりましたね。
――では、「ヘラルボニーエポスカード」について具体的に聞いていこうと思うのですが、まずこの最初のスタートはどこからなのでしょうか?
松田:僕たちからマルイさんへ、今回のベースとなるような企画をご提案させていただいたのがきっかけですね。例えば、コンビニでお茶を買うときでも、このカードで買うと、なんだか今までにない幸せな気持ちになる。大げさに言うと「自分の買い物(行動)によって社会を動かしている」みたいな感覚を味わえるんじゃないかなと。社会との接点から生まれる新しい消費がクレジットカードによって生まれるなんて、すごく面白いなと思ったんです。
――そんなヘラルボニーからの提案を受けて、エポスカードの担当者であるお二人はいかがでしたか?
米本:まずは驚きました。これまでエポスカードでは、新規でご登録いただいたお客さまから、最初の発行料500円を「寄付」というかたちでいただく取り組みはしていました。ただクレジットカードを使うたびに、社会に還元される仕組みはなかった。そこに可能性を見出すご提案だったので、素直に驚くとともにありがたい気持ちになりました。
豊田:私も本当にありがたいお話をいただいたという感覚です。社会との長いお付き合いが、お客さまにとっても目に見えるかたちで感じていただけるクレジットカードの仕組みだなと。ご提案をいただいた瞬間、「やるべきだし、そうありたいよね」って素直に思えましたね。
松田:丸井グループのみなさんとディスカッションさせていただくなかで、エポスカードは若年層のご利用も非常に多いと伺いました。社会課題に対してZ世代(1990年代中盤から2000年代終盤までに生まれた世代)は非常に関心が高く、社会貢献や環境への配慮を踏まえた消費行動に敏感であるという事実もある。そういう観点でも相性が良いと感じました。また、「寄付」は自分の持っているお金から出すものですが、今回の取り組みは自身のポイントから自動的に還元されるので、手出しではない。その点は若年層にとっても、無理なく続けられる仕組みではないかなと。
米本:お客さまがそうした気持ちで気軽にお買い物を楽しんでいただけることも、仕組みのひとつかなと思います。
松田:このクレジットカードは単なる決済手段ではなく、「自らの社会への意思を示すアイテム」とも呼べると考えています。例えば、環境保護活動に取り組む、世界的企業としてパタゴニアがよく挙げられますが、パタゴニアの洋服を着ている人をみると「環境への配慮を意識されている方なのかな?」みたいに思ってしまう。そんな新しい意思表示のようなアイテムになってほしいですね。「せっかくだったらこっちのカードにしよう」という選択に対して、「いいよね」って思われる存在というか…。。
――「クレジット」とは「信用」という意味を指しますが、まさに本来の意味を再び感じさせられるカードだなと思いました。いち企業として、社会に対するスタンスのようなものも感じます。
豊田:丸井グループは「すべての人がしあわせを感じられるインクルーシブで豊かな社会」の実現を目指しています。これは私たちだけで目指せるものではなく、あらゆるステークホルダーのみなさまと共創して目指すもの。そういうカルチャーがグループ全体に浸透しているので、各事業会社が「フィンテック事業だったら社会に何ができるのか?」「小売だったら自分の事業で何ができるだろう?」と、それぞれ考えています。トップダウンではなく、ボトムアップの意識が強いのも丸井グループの特徴だと思いますし、今回の企画もそんなカルチャーのおかげで、実現できたと思います。
――先ほど、豊田さんから「デザインも好評でした」というお話がありましたが、今回はへラルボニーがライセンス契約を結ぶ作家のFumie Shimaokaさん、そして佐々木早苗さんの作品がデザインに起用されましたね。二人の作品を起用した背景を伺えますか?
米本:ヘラルボニーさんとライセンスを結ぶ作家さんは、どの方もユニークで素晴らしい作品を描く方ばかりで、しかもこれまでのエポスカードにはない斬新なデザインばかりでした。当然、担当の私たちだけでは選びきれず、最終的にはエポスカード社内でアンケートを取り、そのなかから上位だった作品を起用させていただきました。
――佐々木早苗さんの作品「(無題)」、そしてFumie Shimaokaさんの作品「宇宙」、それぞれどんな作風なのでしょうか?
松田:佐々木早苗さんは、ボールペンでひたすら黒丸を描く作家です。彼女はダウン症なんですが、知的障害のある方の脳の構造が生み出す、何かを繰り返す行為が作風になっています。実は彼女、1年から1年半という長いスパンで一つの作風に向き合い、またあるタイミングでバツンと作風が変わるんですよ。なので今はボールペンを使った作品はつくらず、色とりどりの丸を紙に描いて、それを切り貼りする作品をつくっています。かれこれ2年くらいその作風だと思いますが、次はどんな作品を描くのか、とても楽しみな作家さんなんですよね。
松田:作品「宇宙」を描いたFumie Shimaokaさんは、他にも「妖精」や「怪獣」など、彼女の心の中にいるものだけを描く作家さんです。作品を描くその時々で「心のドアが開く」とおっしゃっていて、独特な感性を持っている素敵な作家さんです。ちなみに作品は、食事が終わった後に描くというルーティンも持っています。
米本:それぞれが持つ独特の感性が、そのまま作風となって成立されているのがとても素敵だと感じました。可愛らしくもモノトーンな佐々木さんの作品と色彩豊かなShimaokaさんの作品が対照的なので、お客さまも楽しみながらカードデザインを選んでくださるのではないでしょうか。
松田:作家や作品に対してリスペクトをしていただいていることが、僕たちはとてもうれしいんです。純粋に「かっこいいから、可愛いから」という理由で選ばれるのは一人の作家としても嬉しいことだと思いますし、多彩な作家さんがいてこそ、ヘラルボニーはへラルボニーでいられる。今回のクレジットカードに起用された作品を通して、作家や作品に興味を持ってくださる方がいらっしゃれば本望です。
――最後に「へラルボニーエポスカード」の今後についても伺いたいと思いますが、いかがでしょうか?
松田:お客さまからいただいた、利用金額の0.1%分のお金は主に作家の創作活動への支援、ギャラリーの運営、福祉団体への寄付として活用させていただきます。また同時に、成人期の障害のある方たちを支援する団体である「きょうされん」さんとの活動にも力を入れていく予定です。きょうされんさんは、障害者の権利を守る「障害者権利条約」を制定に導くなど、まさに福祉業界と社会の架け橋的な団体です。
しかし、一般的にその活動がまだまだ認知されていない実態もある。きょうされんさんとヘラルボニーがタッグを組むことによって、新しいソーシャルムーブメントのかたちがつくれるかもしれない。そうすることで福祉をもっと身近なものに感じてほしいなと思っています。
――福祉の枠を更に拡充していくイメージなんですね。丸井グループではいかがでしょうか?
米本:丸井グループは、リアルの店舗も持ち合わせているので、しっかりと目で見て知っていただくことを徹底してやっていきます。ヘラルボニーカードの発表に合わせてスタートしたポップアップショップは有楽町マルイから始まりましたが、この後は国分寺マルイ、新宿マルイ本館と展開していきます。このカードの存在や価値をお客さまに知っていただくだけでなく、へラルボニーさんの商品の魅力も一緒に伝えていけたらと思っています。
豊田:マルイの店舗を活用した発信はもちろんですが、ヘラルボニーさんが持つギャラリーや企画している展覧会、施設などと連携してできることもあるのかなと感じています。既にマルイと接点がある方々だけではなく、広くお伝えすることができると、よりお互いのミッションの達成に近づくのではないかなと考えています。
あと私、ヘラルボニーエポスカードの公式サイトに掲載されている「さあ、一緒に誰もが暮らしやすい未来へ向かって。」というボディコピーがすごく好きなんです。ここにいる私たちもお買い物をして、いい未来を過ごしていきたい。そんな想いが循環して福祉の力にもつながっていく。それってすごくいいことじゃないですか?なので、多くの方にこのクレジットカードを知っていただき、ご利用いただくことで「暮らしやすい未来」になるといいなぁと思っています。
松田:今回、この取り組みや仕組み自体が評価されたら、他の企業にも真似してもらいたいですね。社会への意思を示すクレジットカードが多様であればあるほど、社会はもっと多様になるかもしれない。それがいずれムーブメントになり、例えばお買い物でレジ待ちしている際に「そのクレジットカード、かわいいですね。どこのカードですか?」みたいな会話が自然に生まれる…。そんなシーンを想像するだけでも、すごくワクワクするし、そのくらい社会課題を身近に感じられる世の中をつくっていきたい。ヘラルボニーエポスカードを世の中に出せた今日が、また新たなスタートになりそうです。
text:Ryo SAIMARU