電車とアイドルを愛するアーティスト・早川拓馬が描く凝縮された「好き」。「聴く美術館 #4」

この春スタートした福祉実験ユニット・ヘラルボニーの契約アーティストにフォーカスするポッドキャスト「HERALBONY TONE FROM MUSEUM〜聴く美術館〜」。

俳優・映像作家・文筆家として活躍する小川紗良さんと、ヘラルボニーの代表取締役社長の松田崇弥(たかや)が聞き手となり、アートに耳を澄ませながら、作品の先に見えるひとりの”異彩作家”の人柄や、これまでの人生に触れていきます。

第4回のゲストとなる異彩作家は、早川拓馬さん。数々の受賞歴を持つ早川さんの作品は、見る人を圧倒する凝縮された「好き」が詰まっています。

#好きなもので埋め尽くす

松田崇弥(以下、崇弥):本日は早川拓馬さんという作家を、三重県松阪市からお届けします。紗良さん、まずはこちらが早川さんの作品なのですが何が描いてあるかわかりますでしょうか?

Takuma Hayakawa「踊りながら通過列車」

小川紗良さん(以下、小川):すごいですね!ものすごい緻密さでいろんなものが描いてあるんですけど、これは電車ですよね?

崇弥:まさにそうなんです!電車がですね、縦横無尽に張り巡らされていて、その中にちょっと輪郭が見えませんか?

小川:あ!よく見ると人の形があるんですね!

崇弥:まさにおっしゃる通りです。絵に張り巡らされた中に、人の輪郭がありますよね。真ん中に男性がいて、その両隣にいる人は女性に見えるんじゃないかなと思うんですけれども。

小川:これは誰で、周りは誰なんだろうって気になっちゃいます。

崇弥:男性が隣の女性たちと握手してるように感じませんか?

小川:たしかに、手が重なり合ってますね。

崇弥:そうなんです。これ実は真ん中の男性が早川さんご本人で、握手しているのは実はアイドルの女性なんです。

小川:アイドル?

崇弥:はい。ご本人は強烈に電車とアイドルが好きで、自分も絵の中に登場し、電車に埋め尽くされながらアイドルと握手してるっていう。そういった作品類を、ものすごい緻密に描いているんです。私たちも現代アートのギャラリーで、よく早川さんの作品を展示させていただいているんですが、何百万円といった金額で取引されることもあります。そんな非常に注目をされている作家さんを、本日お呼びしております。

小川:すごい。早川さんは三重県にある「希望の園」に在籍されてるアーティストなんですよね?

崇弥:そうなんです。本日は「希望の園」の村林施設長にもお越しいただいております。「希望の園」は、田んぼ道がバーっと続く、松阪牛なんかもいる中にポツンとある福祉施設で、そこのアトリエに早川さんは在籍されています。

小川:ということで、今日はオンラインで早川拓馬さんと村林さんにご登場いただきます!こんにちは!

早川さん:こんにちは!

村林施設長:こんにちは!

崇弥:よろしくお願いします。

早川さん:お願いします。

小川:今、早川さんの作品を見させていただいたんですけど、本当に電車とアイドルが大好きなんですね!

村林施設長:好きなんですか?

早川さん:はい!大好き。

崇弥:大好き。

早川さん:電車が大好き。

崇弥:いいですね!なんで電車が好きになられたんですか?

早川さん:電車が、見たい!ロマンスカーミュージアムがあるね!

崇弥:ロマンスカーか!実は、JR東日本さんはヘラルボニーの株主でいらっしゃるんですよ。

小川:おお!

崇弥:それでね、早川さんにぜひJR東日本さんの電車の絵を描いていただけないかご依頼しようと思ったんです。そしたら、他の鉄道会社も非常に大好きだと。他にも競合がいらっしゃるということで、そのときはご依頼できずでして。僕の私利私欲がでてしまって恐縮でした(笑)。

小川:それだけ電車が幅広く大好きということで。早川さん、電車のどんなところがお好きなんですか?

早川さん:電車の?

村林施設長:うん。なんで電車が好きなの?

早川さん:(力強く)ロマンスカーミュージアムに行きたい。

村林さん:早川さんはね、旅行もすごく好きなんですよ。

小川:へえ!

村林施設長:多分、行ったことないとこ行ったりだとか、見たことないものを見たいとか。そういう好奇心がすごく強くて、そんな場所に移動させてくれるようなのが電車だというのもあるんじゃないですかね。

崇弥:お母さんとも、いつもいろいろな場所にお出かけしていらっしゃいますもんね。先日は東京のヘラルボニーの展覧会にもお越しいただいて、ありがとうございます。

小川:電車のこの絵を見ていて不思議だったんですけど、いつもどんなふうに絵を描いてるんですか?

村林施設長:何か描きたいものがあると、まず輪郭を描いてですね、その中を電車で埋めていくっていう感じです。結果的にその電車でできた人物であったり、電車でできた風景ができるっていう。

小川:へえ、そうやって描いてるんだ。

村林施設長:描きたいアイドルとか、好きな人物、旅行先で見た風景の形を描いて、それを電車で埋めていくんですね。

小川:じゃあ、好きなものを好きなもので埋めるってことですね、素敵です。ちなみにアイドルは誰がお好きなんですか?

早川さん:アイドル?アイドルが好き?どのアイドル?

村林施設長:アイドルは誰が好きなの?

早川さん:どのアイドル?どのアイドル?…乃木坂46。

崇弥:そのなかでも誰が好きなんですか?

早川さん:いるよ。

村林さん:誰?

早川さん:(大切そうに)筒井あやめちゃんだよ!

崇弥:おお〜!イベントに行ったりもするんですか?

村林施設長:東京で展覧会がある時は、秋葉原のAKB48劇場に行ったりとかしていますね。

崇弥:そういえば、名古屋三越さんでの展覧会をテレビ局さんにご取材いただいたときにも、早川さんが「作品が売れたらどこに行きたいか」って聞かれたら「握手会に行く!」とね、おっしゃってて。

小川:へえ〜!

(左)「通過電車だらけのポーズ」(右)「踊りながら通過列車」

崇弥:先日も、原画が180万円ぐらいでヘラルボニーでも売買されましたけども。早川さん、そのお金で、何かされたりしましたか?

村林施設長:お金、儲かってるよね?

一同:(笑)

村松施設長:何に使ってるの?どこか行った?旅行かな?

早川さん:(弾むような口調)ロマンスカーミュージアム。

崇弥:めちゃくちゃ好きなんだ、ロマンスカーミュージアム!僕も行ってみたいな。

早川さん:大好きだよ。

崇弥:いいねえ〜!どこにあるんですか?

早川さん:ロマンスカーミュージアム?海老名駅だよ。

小川:早川さんはロマンスカーに乗ったことはあるんですか?

早川さん:ロマンスカー?

村林施設長:ありますあります。というか、僕と一緒に乗ったんですよ!。あの時は嬉しくて興奮してましたね。たしか、町田の小さな民間の電車博物館みたいなのがあって、そこに行った時だったかな。

早川さん:町田?電車?

村林施設長:あれ、早川さん、緊張してるねえ。

小川:あら。早川さん大丈夫ですか?

早川さん:…はい!

村林さん:ふふ。小川さんがかわいいからだね。はい、じゃあお姉さんの顔を見ててください(笑)。

小川:あはは!

崇弥:いつかね、紗良さんと直接握手していただいたらいいかもね。お母様も一緒に。

小川:本当ですね。スタジオに来ていただきたいです。

早川さん:(嬉しそうに)握手?握手会?

小川:はい!よろしくお願いします(笑)。

#俯瞰で描く

小川:早川さんは、昔からこんなふうに絵を描いていたんですか。

早川さん:いつから?アトリエ?いつから?…小学校のとき。小学校1年生。

村林施設長:すでに物心ついた時から絵を描いていたようで。それで小学校の担任の先生が、すごく上手だしずっと描いてるからという理由でアトリエに連れてきてくれました。それが3年生くらいの時かな?

崇弥:へえ。

小川:そのときから電車とか好きなものを描いていたんですか?

村林林施設長:そうですね。電車とか動物、を画用紙に水彩絵の具で描いてましたね。

崇弥:水彩だったんですね!今とはまた違う世界観だったんですよね、きっと。

村林林施設長:そうですね。花も描いてましたね。

小川:へえ素敵ですね。今はちなみに何を使って絵を描いてるんですか?

村林林施設長:今は何を使ってる?

早川:何使っている?…油絵。

小川:へえ、すごい。

崇弥:早川さんの初期の作品を私も拝見していて、初期と今、作風は一緒なんだけれども、画力がすごく上がってるなっていうのを感じていて。早川さんとお会いされた初期、村林施設長はどんなふうに早川さんをとらえてらっしゃったんですか。

村林施設長:アトリエに来た頃「家族でスキーに行った思い出を描きます」と言って、画用紙にリフトに家族3人で乗ってる風景を真上から描いていたんです。つまり、俯瞰で丸い頭のてっぺんがあってそこから肩が描いてあって、これはすごいなと。自分が見た視点じゃなくて、自分がいる風景を描くんです。

小川:たしかに今の作品も電車っていう世界の中にご自身が存在してますもんね。いつも早川さんの見てる風景っていうのは、ちょっと独特で俯瞰的なところがあったりするのかもしれないですね。

村林施設長:そうですね。最初はアイドルの女の子や電車を別々に描いてたんですけども、10年ぐらい前からかな?電車そのものでアイドルを描いて、一緒に好きなものが混ざってね、描くようになりました。

小川:なるほど。早川さん、どんなふうに1日を過ごされてるんですか?

村林施設長:早川さんは、お迎えは何時ですか。

早川:お迎え?…バスのお迎え?…希望の園?9時15分。

村林施設長:そうだね。まずは、朝お迎えに行き、施設で黒にんにくを剥くような軽作業をして。その後、午後3時までずっと絵を描いています。

崇弥:早川さんの作品は2m級のサイズで描かれたりもするので、一作品は1年ぐらいかけて描くこともあるそうですよ。

小川:たしかにこれだけ細かいたくさんの電車を描くとなったら、相当時間かかりますもんね。

# 「ヘラルボニーの大田さん」

小川:この人物が大田さん?

崇弥:そうなんです。早川さんが描いてくださって、大田もすごい喜んでいて。早川さん、大田さん覚えてますか?

早川さん:大田さん?知ってるよぉ!

小川:すごい笑顔だ! 

崇弥:過去の取材記事でも、友達の大田さんとして紹介してくれたこともありました。ただ、大田さんが今、盲腸で入院しちゃってまして。もう退院目前なんですけど、何か良かったら、お見舞いの言葉をいただけたらなと思います。

村林施設長:大田さん、病気なんだって。声かけてあげて?

早川さん:大田さん?病気ね?…あ、残念だね…。

一同:爆笑

崇弥:めっちゃ軽いなあ!いいですね!いやでも本当に喜ぶと思います。病室から自撮りも送られてきてたので、後でお送りさせていただきます。

村林施設長:今回のインタビューにあたっていただいた事前アンケートでも「お好きなものなんですか」という項目に「大田雄之助」って書いてましたよ。

小川:さっきも大田さんの名前が出た瞬間の笑顔がすごかったですもん!本当に好きなんだなと思って。

崇弥:大田さんのご結婚の際に渡された絵の裏にも、早川さんの字ですかね?「ご結婚おめでとうございます」って書いてありました。一緒に「通過ジオラマの大田さん」とも書いてありますが。

早川:タイトル。

小川:タイトルですか。なるほど!

崇弥:いや〜、幸せ者ですね。大田も。

小川:そんな早川さんは、数々の受賞歴があるそうで。今まで、東京、愛知、三重、ドイツ、スペイン、中国、ベトナムなど、数えきれないほど国内外のグループ展に参加されていますね。たとえば、2006年には地元・松阪市の美術館で奨励賞を取られたりなども。

崇弥:そうなんですよ。受賞歴を見ていただければおわかりかと思いますが、受賞しているのは障害のある人を対象とした展覧会だけじゃないんです。純粋に芸術として評価を受けている作家さんなので、いまお聞きの方は「早川 ヘラルボニー」などで検索いただくと、たくさんの作品が出てきますので、見ていただけたら嬉しいですね。

小川:しかも海を越えて海外でも参加されてるのがすごいですね。受賞したとき、早川さん、どんな感じでしたか。

村林施設長:けっこう賞とってるよね?「みえ県展」で優秀賞とか。

早川さん:優秀賞。

村林施設長:アートパラ深川公募展で「観光庁長官賞」賞もとってるじゃん。

早川さん:とってる。

村林施設長:賞とったときどういう気持ち?

早川さん:とった時?どうですかね。

村林施設長:どうですかねじゃないよ〜。(笑)

早川さん:どんな気持ち?嬉しい。

小川:私はときどき保育園で働いてて(注:小川さんはご自身の監督作品をきっかけに保育士資格を取得されました)、そこでも電車好きの子ってたくさんいるんです。こんな早川さんの絵が家にあったら興奮する人はたくさんいそうですね。

崇弥:確かに、そうですね。早川さん自身は、どんな人に自分の絵を見てほしいですか?

村林施設長:どんな人に見てほしい?

早川さん:どんな人に見てほしい?…僕が描いた絵です。

村林施設長:僕が描いた絵だね。誰に見てほしい?

早川さん:誰に見てほしい? …(力強く)大田さん!

一同:おぉ〜!!

崇弥:大田さんかぁ〜!まるで台本のような素晴らしい回答、ありがとうございます。これは大田も喜びます!

小川:大田さんには早く元気になっていただいて、会場で作品を見ていただきましょう。

崇弥:本当ですね。ということで早川さん、村林さん、今日はお話ありがとうございました。

早川さん・村林施設長:ありがとうございました。

小川:ありがとうございました!これからもたくさんいろんなところに電車で出かけて、アイドルに会いに行って、そして素敵な絵を描いていただけたら、私も嬉しいです。

崇弥:次はぜひ紗良さんにも会いに来てください。六本木ヒルズのJWAVEまで。

早川さん:六本木ヒルズ?行きたいね。六本木ヒルズ。東京!

小川:お待ちしています!今日は貴重なお話をありがとうございました!好きな気持ちがまっすぐ伝わってくる楽しい時間でした!

text 赤坂智世

Takuma Hayakawa

希望の園(三重県松阪市)在籍。

1989年2月2日東京都狛江市生まれ、現在三重県度会郡在住。NPO法人希望の園所属。幼少より国内外の展覧会、コンクールに多数出品。電車とアイドルが大好きで制作テーマでもある。パレット上で見たことのない色ができると「い~ね~、見たことないね~!」と声をあげて楽しさを表現している。

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「アートから想像する異彩作家のヒストリー」をコンセプトに、アートに耳を澄ませながら、作品の先に見えるひとりの”異彩作家”の人柄やこれまでの人生に触れる番組です。

役者・映像作家・文筆家として活躍する小川紗良さんと、ヘラルボニーの代表取締役社長の松田崇弥の2名がMCを担当。毎回、ひとりのヘラルボニー契約作家にフィーチャーし、知的障害のある作家とそのご家族や福祉施設の担当者をゲストにお迎えしています。

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