森啓輔の色彩は、レコードジャケットに新たな命を宿す。「聴く美術館 #5」

この春スタートした福祉実験ユニット・ヘラルボニーの契約アーティストにフォーカスするポッドキャスト「HERALBONY TONE FROM MUSEUM〜聴く美術館〜」。

俳優・映像作家・文筆家として活躍する小川紗良さんと、ヘラルボニーの代表取締役社長の松田崇弥(たかや)が聞き手となり、アートに耳を澄ませながら、作品の先に見えるひとりの”異彩作家”の人柄や、これまでの人生に触れていきます。

今回のゲストは、レコードジャケットをモチーフに印影と色彩を巧みに表現する異彩作家・森啓輔さんと、今の作風にいたるきっかけとなった「希望の園」の村林施設長。今回は副社長で崇弥の双子の兄・文登(ふみと)も同席してお話を伺いました。

#レコードジャケット

小川:今日はオンラインで、森啓輔さんご本人と村林施設長にもご登場いただきます。

森さん:こんにちはーーーー!!!

小川:すごい元気いっぱい!ありがとうございます。

崇弥:元気ですね〜森さん!どうしたんですか?

村林施設長:今日は張り切ってるの?

森さん:今日は、張り切ってやります!!

文登:ありがとうございます。

Keisuke Mori「誰かが誰かを愛している」

小川:ありがとうございます!森さんの絵を拝見しまして、本当にカラフルで素敵だなと思ったんですけど、いつもレコードジャケットの絵を書いてるんですよね?

森さん:はい!

小川:それはどうしてレコードジャケットなんですか?

森さん:カッコイイからです!

小川:レコードが「希望の園」にあって、それを描き始めたっていうことですか?

村林施設長:そうですね。アトリエの大家さんが、レコード収集が趣味で。それに乗っかって僕も集めてるので、レコードがたくさん置いてあるんです。いつからかわかりませんけど、森さんはそこから選んで「かっこいい人を書くんです」って言って描き始めたんですね。

小川:森さんご自身は、レコードを聞くんですか?

森さん:うちにはレコーダーがありますが、今は使われていません!

崇弥:そうかぁ。

小川:ビジュアルなのかな?かっこよさに惹かれてという。

レコードを描き始めた頃について、村林施設長は覚えてらっしゃいますか?

村林施設長:はい。啓輔さんは1989年生まれで、小学校6年生のときから僕のアトリエで絵をやってるんですけども、当時は水彩絵の具で普通に画用紙に書いてましたね。

小川:何を書いてましたか。

森さん:えーっと、果物かな?

小川:へぇ!

崇弥:見てみたいな。作風はどうだったんですか?今のような立体的に見えるほどカラフルな世界観だったんでしょうか?

村林施設長:非常に純粋ではありますが、割と普通に、かわいく描いていました。

森さん:(画面上で満面の笑み)

崇弥:すみません、今、森さんとオンラインで繋がってるんですけど。ものすごい、ものすごい笑顔だからちょっとすいません、気になってしまいました(笑)。

文登:いい笑顔ですね~!啓輔さん。

森さん:はい!

崇弥:なんだかこっちまで、元気もらえるね。

小川:もらえますね!もともとは絵柄が違ったっていうことなんですけど、どんなふうに今のスタイルに変わっていったんですか?

村林施設長:「どうやったらうまく書けますか?」って聞いてきたんですよね。

小川:へぇ~!

村林施設長:それで「明るいところは明るい色で、暗いところは暗い色を使えばどうですか」って言ったら、今のようになったんです。

崇弥:そうなんですね!紗良さんも直接ご覧いただくとわかるかと思うんですけど、まさにその陰影の付け方として、右側がすごく明るい光が当たってる顔に、左側は暗い絵になっている作品がよくあるんです。その中でも黒色だけでも、3、4種類の黒を使い分けて塗られるので、その陰影の付け方がすごく繊細なんです。

Keisuke Mori  「Let it be」

小川:そうなんですね!聞いたところによると、森さんはすごく時間をかけて色を作るっていう話なんですけど、いつもどうやって色を作っているんですか?

村林施設長:どうやって色を作ってるの?

森さん:ひとつの色を、混ぜて、作るんですよ!

小川:へえ~!すごい時間をかけて作られるんですよね?

村林施設長:そうなんです。キャンバスに色をつけている時間よりも、パレットを触ってる時間の方が長いかもしれないです。

文登:おぉ~!そうなんだ。

村林施設長:20分ぐらいずっと(絵の具を)こねてるんですよね。

崇弥:やっぱり森さんは色を作ることに強いこだわりがあるってことですよね?

村林施設長:はい。ただ1本線をすーっと入れるのにも40分ぐらいかかるんですよ。

文登:えぇ、40分!?

小川:じゃあ、このレコードジャケットの絵を作り上げるのにはどれぐらい時間がかかるんですか?

村林施設長:すごいですよ。小さい作品の方が時間かかるんですよ。逆にちっちゃくなると細かくなるから。だから最近はひとつの作品に1年以上かかることもありますよ。大きいサイズ、20号、30号くらいの作品だと3ヶ月くらいかな。

文登:なるほど。

小川:描くときも、もとのレコードジャケットをそのまんま書くわけじゃなくて、森さんなりの色使いで変えていくわけじゃないですか。その使う色は、森さんの好きな色なんですか?

森さん:いろいろと好きな色。使う色はいろいろあるよ!

崇弥:どんな色が好きですか?

森さん:えーっと、赤、青、緑、黄色、桃色、白…

崇弥:めっちゃありますね!

文登:まだありそう。

森さん:あと…

文登さん:ほら!

村林施設長:全部好きなの?

森さん:金色、銀色などもです!はい!

小川:いいですね~!そうやって20分ぐらいかけて、いろんな色を作る時間が好きなんですか?

森さん:はい!

崇弥:実は、ヘラルボニーのリクルーティングにも森さんは関わっていただいて。

小川:へぇ!どんなふうに?

崇弥:ヘラルボニーの盛岡ギャラリーで森啓輔展を行ったとき「30歳になる記念に、アートを買いたいんです」とわざわざ東京から岩手のギャラリーに作品を買いに来てくれた女性がいたんですけど、彼女は今うちで働いてまして。小林恵というんですが。

小川:すごい!

文登:森さんの作品が欲しいんだと、人生初のアート作品をヘラルボニーで購入して、入社までして。

崇弥:森さん、小林さんっていう方が森さんの絵を買って、入社してくれました。ありがとうございます。

森さん:嬉しいです!

崇弥:森さんもいい顔してますね、本当に!

小川:描くレコードジャケットは、いつもどうやって選んでるんですか?

村林施設長:レコードジャケット、何を基準に選んでるの?

森さん:うーん、どれを描くのか迷ってしまいます!

崇弥:やっぱり迷うんですね~。迷いながら、好きなものを中心に決めてるってことですか?

森さん:はい!

#ブックオフ!

小川:1日のうち、ほとんど絵を描いていらっしゃるんですか?

村林施設長:森さんは一般就労しているので、平日はスーパーでお肉を切るお仕事をしてるんです。

小川:へぇ~!

村林施設長:それで平日は週に1回、午後3時頃から「希望の園」に来るのと、毎週土曜日は朝から夕方までいますね。

崇弥:なるほど。森さんは本当に勤勉というか、素敵なんですよ。以前、名古屋の百貨店でヘラルボニーの展覧会をさせていただいた時に「希望の園」の皆さんにもお越しいただいたんです。そしたら、森さんがレジ打ちを手伝おうとしてくださって!人員不足の中、ありがとうございました(笑)。

森さん:レジ打ち、好きです!

文登:レジ打ち、お好きなんですよね?グイグイ手伝ってくださって、ありがとうございました。

崇弥:ありがたいよね。ほんと。

小川:森さんは絵を描くこと以外にも、好きなことがいっぱいあるって聞いたんですけど、どんなことが好きですか?

村林施設長:どんなことが好きなの?

森さん:飾ってある絵を、お客に見せるため!

小川:お客さんに見てもらうこと?ほかにも食べ放題がお好きとか、いろいろ伺いました。

崇弥:ふふふ、なんかいいですね。何が好きですか?絵を描くこと以外に。

森さん:僕?

村林施設長:うん。

森さん:好きなもの…。あー、ブックオフ!

小川:ブックオフが好きなんですか!なんでお好きなんですか?

森さん:本や、ゲームソフト、CD、DVDが、売ってるから。

小川:へぇ~!

村林施設長::本を売るなら…

森さん:ブックオフ!!(CMソングの音程で)

一同:(笑)

崇弥:おぉ~、CMが入りましたね(笑)。東京で展覧会を開催した時も、森さんはわざわざ東京のブックオフにも行かれていたそうで。全国のブックオフをまわられてるんですよね?

村林施設長:まわってるの?

森さん:うーんと、えーっと・・・(画面越しにおどけている)

一同:(笑)

文登:ちょっと~!顔芸はやめてくださいよ~(笑)

森さん:うぅんとぉ、えぇっと…。(小声で濁しながら)そうかも、しれない…。

一同:(笑)

森さん:度会橋(わたらいばし)と松阪ですよ。

崇弥:三重の度会橋と松阪にもブックオフがあるんですね。

文登:そこが一番「推し」のブックオフなのかな?。

森さん:そうです。

文登:なんか、リサイクルショップもお好きだって聞きましたけど。そういうところで買うのが好きなんですか?見るのが好きなんですかね?

森さん:見たり、買うんですよ!

文登:なるほど。最近そこで買った好きなものはありますか?

村林施設長:最近何買ったの?

森さん:買ったものって?

村林施設長:うん。

森さん:本とか、おもちゃとか、ゲームソフトなどです。

文登:へぇ~、いいですねぇ。

小川:ゲームがお好きなんですか?さっきもお話にありましたね。

森さん:スーパーファミコンが、好きです!

#かわいいヒカルちゃん

小川:同じ施設にいらっしゃる方なのかな?ヒカルちゃんってお友達がいらっしゃるとうかがいました。森さん、ヒカルちゃんはどんな子ですか?

村林施設長:ほら、ほら(笑)

森さん:ヒカルちゃん?

村林施設長:どんな人?ヒカルちゃんはどんな人?

森さん:ヒカルちゃんは、女の子です。

小川・崇弥・文登:ふぅ~ん!

村林施設長:どう思ってるの?

森さん:かわいいです!

小川:よく仲良くしてるんですか?

森さん:はい!

崇弥:いいねぇ~!ヒカルさんには、森さんの作品を見てもらったことあるんですか?

森さん:僕の作品を見てもらったこと?う~ん、あるか、ないか…。

村林施設長:いや、同じアトリエで描いてるよね!?

一同:(笑)

崇弥:ああ、同じアトリエで描いてる人なんだ!

村林施設長:一緒におやつ食べてるよね、いつも。

森さん:午前ですよ。食べ終わったらいつもいってるよ。

小川:村林さん、啓輔さんとヒカルさんのご関係っていうのはどういう感じなんですか?

村林施設長:女性としてだいぶ興味をもっているようです。そうそう、昨日は今日の収録のために、ちょっとした準備をしてまして。

崇弥:ありがとうございます。

村林施設長:それで、アトリエに行く時間が遅くなったんですよね。そしたらヒカルちゃんはずっと森さんのことを待っててくれて。

文登:おぉ。

村林施設長:でも時間がなかったから、結局ヒカルちゃんはひとりで帰っちゃって。そしたら森さんはずっと「余計な仕事をさせやがって!」と。ヒカルちゃんが帰っちゃったじゃないか、どうしてくれるんだ!って(笑)。

崇弥:あぁ~、森さん!

村林施設長:「どうしよう、どうしよう、あぁヒカリちゃんが帰っちゃった。怒ってしまったらどうしよう」って。ほいで電話して。

崇弥:電話を、村林さんが。

村林施設長:そう。で、電話して(ヒカリちゃんが)「私は怒ってないよ」って。それで仲良くなったんだよね?

森さん:はい!

村林施設長:(森さんに向かって)すいませんでしたねぇ!もう!(笑)

崇弥:このラジオの打ち合わせでヒカルちゃんと会えなかったってことですよね?すいません、大変失礼しました(笑)。大切な方なんですね。

Keisuke Mori「青春のバラード」

小川:絵を描いている時間以外で、村林さんが啓輔さんと接していて何か思い出深いことはありますか?

村林施設長:例えば土曜日とかお昼を一緒に食べに行ったりするんですけど、味噌汁とかラーメンとかうどんとか、スープを飲むときに。

小川:うん。

村林施設長:目を閉じるね。

崇弥:味わってるんですねぇ。

村林施設長:味わいます。それで必ず「はぁ~~ふ!」って言いますね。

一同:(笑)

崇弥:美食家だなぁ!

小川:作った人も嬉しいでしょうねぇ。そんな風に味わってもらえたら。

村林施設長:好きなものの中にはには「ご飯おかわり!」もありますからね。

小川:啓輔さん、ご飯おかわりが好きなんですか?

森さん:はい!

文登:その中でも一番好きな食べ物というと、どんなものが好きなんですか?

村林施設長:一番好きな食べ物は何?

森さん:僕の一番好きな食べ物は、魚です。

小川:おぉ~魚かぁ。魚をどうやって食べるのが好きなんですか?

森さん:焼き物とか煮物とか、揚げ物などもある。

崇弥:いろんなパターンで。

森さん:はい!

小川:好きなものがいっぱいある方なんだなっていうのが本当に伝わってきますね!

文登:作品を直に見ていただくと、森さんの異彩ぶりがですね、伝わるんじゃないかなと思いますね。

小川:いや、本当に何かこの森さんの絵って…

森さん:はい!

崇弥:返事してくれた。ありがとうございます!

森さん:ありがとうございまーーす!

一同:(笑)

小川:ふふ!森さんの作品、本当にかっこいいですもんね!

崇弥:この前も阪急梅田で展示会があって、森さんの100万円を超えるアート作品が売買されまして。実際に森さんが購入者にお会いした時も、今みたいにでっかく「ありがとうございます!」って言っていただきました。ちなみにその絵は現在、海外の別荘でいろんな国から来るお客様をおもてなしされているそうですので、すごいなと。ありがたいなと思っております。

文登:森さん、森さんの作品が海を越えましたよ!

森さん:本当ですか!!!

文登:はい!

小川:森さんが絵を描くときに、一番頑張ってることって何ですか?

森さん:うーん…。(しばらく沈黙)レコードジャケットを選んで、絵を描いてる。

崇弥:絵を描いているときに、何が一番楽しいなって思いますか?

森さん:絵を描く?

村林施設長:絵を描いている時、どういうところが楽しい?

森さん:鉛筆で描く前に、白い絵の具を塗るんですよ。

文登:全体に白絵の具を塗ってから色をつけていく、ってことですかね。

森さん:いえいえ、鉛筆で書くんですよ。

崇弥:あ、ごめんなさい。

村林施設長:白で地塗りをしてから、鉛筆で形を描くんですよ。

小川:下地のところが一番楽しいんですね?

村林施設長:下地が楽しい?鉛筆が楽しい?

森さん:白い絵の具で地塗りして、それで鉛筆で絵を描くんですよ。

小川:へ~、そこが楽しいんですね。ちょっと意外でした!

文登:最初の土台を作るところかぁ。高揚感がありそう!

小川:皆さんもぜひ、直接絵が見られるということで、そんな工程も想像しながら見ていただけると嬉しいなと思います。ということで、森さん、村林さん、今日は本当に貴重なお話ありがとうございました。

森さん:ありがとうございました!!

村林施設長:ありがとうございました。

小川:最初から最後まで、森さんのご挨拶とかお礼の言葉が本当に心地よくて、すごく元気をもらえました。ありがとうございます!

崇弥:もう終わるぐらいのテンションの中、ごめんなさい!森さん、もしよければ今後ヘラルボニーでやってみたい、こんなお仕事してみたいという要望があればぜひお聞きしたいです!何をヘラルボニーでしてみたいですか?

森さん:展覧会です!

文登:展覧会!やりましょう!「森啓輔展」としてやるってことですよね。

崇弥:岩手で1回やったから、次はどこでやりたいとかありますか?

森さん:東京都です!!

崇弥:ありがとうございます。じゃあ東京都で個展ってことですね!私たちも頑張ります。

文登:森さんにも新作を頑張って書いてもらわないと!よろしくお願いします。

森さん:はい、頑張ります!よろしくお願いします!!

崇弥・文登:よろしくお願いします!

小川:いつかまた東京で森さんの絵が見られる日が来るかもしれないっていう。

森さん:えいえいおー!!

小川:私も楽しみにしてます!ということで、おふたりとも本当にありがとうございました!

森さん:ありがとうございました!!!

村林施設長:ありがとうございました!

崇弥・文登:ありがとうございます!

小川:そして文登さんも本日はありがとうございました。

文登:ありがとうございます!(崇弥さんと)同じ声に聞こえるってよく言われるので、ややこしくてすいません(笑)。

小川:いえいえ、ありがとうございます。崇弥さん、次回もよろしくお願いします

崇弥:よろしくお願いします。

text 赤坂智世

Keisuke Mori

12歳のときアトリエで制作を始め、17歳から油彩画を描き続けている。施設に収蔵されている膨大なレコードジャケットの中から、心惹かれた「カッコイイ」1枚を選んで描く。F100号などの大型作品を描くこともある彼だが、20分かけて色を作り、40分かけて20㎝の線を描くため、そこには膨大な時間が塗り込まれている。特徴的な明暗の際立つ色彩構成は、師である村林理事長の助言から着想を得て確立した。毎朝早くから制作をはじめる彼は、アトリエの扉が開くたびに気持ちのいい挨拶をして出迎える。趣味はテレビゲームとリサイクルショップを巡ること。

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「アートから想像する異彩作家のヒストリー」をコンセプトに、アートに耳を澄ませながら、作品の先に見えるひとりの”異彩作家”の人柄やこれまでの人生に触れる番組です。

役者・映像作家・文筆家として活躍する小川紗良さんと、ヘラルボニーの代表取締役社長の松田崇弥の2名がMCを担当。毎回、ひとりのヘラルボニー契約作家にフィーチャーし、知的障害のある作家とそのご家族や福祉施設の担当者をゲストにお迎えしています。

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