大胆、なのに優しい。花を描く異彩・福井将宏の制作風景【異彩通信#6】
「異彩通信」は、異彩伝道師こと、Marie(@Marie_heralbony)がお送りする作家紹介コラム。異彩作家の生み出す作品の魅力はもちろん、ヘラルボニーと異彩作家との交流から生まれる素敵な体験談など、おしゃべり感覚でお届けします。「普通じゃないを愛する」同士の皆さまへ。ちょっと肩の力が抜けるような、そして元気をもらえるようなコンテンツで、皆さまの明日を応援します。
こんにちは、スタッフのMarieです。
今日の主役は、春の訪れが待ち遠しい今の時期にぴったりな、暖かな風が舞い込むような春らしいアートです。
真っ赤な背景を前に優しくたたずむ、黄色いお花。これは何の花でしょう…?
こちらのタイトルは「ナノハナ」です。
では、こちらのチャーミングな卵のようなお花は…?
こちらのタイトルは、「スイセン」
デフォルメされた花々は、見ているだけでやわらかな気持ちになりますよね。それでいて、色使いと構図はダイナミックな力強さを感じます。相反する魅力が共存する、なんとも個性豊かな作品たち。
これらの作品は、どのようにして生まれているのでしょうか。今日は、花を描き続ける作家、福井将宏(Masahiro Fukui)の制作風景を覗いてみましょう。
福井が描く「椿の花」
福井さんは、2005年から鳥取県にある「アートスペースからふる」の前身であるアート教室に通い始め、約18年の間、花をモチーフにした作品を描き続けてきました。そして、今では福井氏の中で「花を描くのが仕事」という認識を持つようになったそう。
アトリエに到着すると、今日もさっそく仕事に取りかかります。
アトリエにはたくさんの花が用意されています。いくつかの候補の中から、今日のお花を選びます。この日に福井さんが迷いなく選んだのは……椿の花。
これだ!と言わんばかりに、福井さんは「つ・ば・き!」を連呼。
お花を選んだ後は、いつものエプロンを身につけて、筆やパレットを取りに行きます。ちなみに、このエプロンも花の刺繍入り。本当にお花が好きなんだなと伝わってきます。軽快な足取りが、ワクワク、嬉しそう。
準備ができたら、実際の花を前に、制作スタート。
自ら下地を塗っておいたキャンバスに、大胆な筆遣いで椿の赤い花びらを大きく描いていきます。
次の色に移ります。小さな容器にバケツからたっぷり水をくんだら…
絵の具を入れた容器と筆を洗っていきます。水をたっぷり使うので、筆を拭くタオルは必ずトレイに乗せています。キャンバスに大輪の花を咲かせる福井さん、制作時は常に大胆です。
緑の絵の具で葉っぱも描いたら…
大胆に咲き誇る椿の絵が完成!
近頃の福井さんは、以前とは少し作風が異なり、背景を全て覆ってしまうほど花びらがキャンバス全体に広がるスタイルがお気に入りだそう。
視界全面に咲き誇る椿の花は、圧倒的なエネルギーを感じると共に、やはりどこか包み込むような優しさも感じさせます。
このようにその時々によって作風が変化していくことも、異彩作家の作品の魅力のひとつです。
迷いのない画面の構成と筆の運びとは相反し、温かみと優しさを感じさせる彼の作品。
「描きたい」という強い想いと、福井さんの目と心に映る景色から伝わる優しさ、その両方がキャンバスの上で混ざり合い、彼だけの魅力を放つ作品が生まれているのだと感じます。
「福井フォント」と呼ばれる文字表現
お花を描く福井さん、実はもう一つ、独特の作風を持つ表現があります。それは「福井フォント」と呼ばれる文字による表現です。
この動画の撮影時も、椿を描く傍らで、同時に「福井フォント」での表現も進行していました。
福井さんは発語によるコミュニケーションが得意ではなく、文字にしてコミュニケーションをとることが多いのだそう。
この日は今行きたい場所を「福井フォント」で何度も書き記していました。
踊るように、力強く書かれていた文字は、「中電ふれあいホール」。鳥取にある施設で、イベントのチラシが多く置いてある施設を好む福井さんにとって、大好きな場所のひとつです。コロナ禍で訪れる機会が減った場所でもあるため、今でも「行きたい」という気持ちが強く、よく書かれる言葉なんだとか。
こだわりのハイビスカス
福井さんはさまざまなお花を描かれていますが、ときには一つの花にこだわり、何ヶ月も同じ花を描き続けることもあるそうです。
そんなこだわりの花の一つが「ハイビスカス」です。ハイビスカスはなんと、1年以上も毎回選ばれ続けており、生み出された作品は50以上にのぼるそう。
そのうちの一つが、こちらの作品です。
見る人の心にあたたかさと力強さを与えてくれるこちらの作品は、HERALBONYのプロダクトにも起用されています。
福井さんのこだわりとやさしさの詰まった花々を、あなたの身の回りにもぜひ、咲かせてみてはいかがでしょうか。
また、福井さんに関するエピソードは、「聴く美術館」にもあるのでぜひ。
>>聴く美術館#16はこちら
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福井将宏 Masahiro Fukui
モチーフや図録を見て描くのが彼の制作スタイル。彼の目にうつった植物たちはみんなあたたかい。太筆で描き進める作品は、愛らしく、見る人を優しい世界へ連れて行きます。一方、マジックペンで大胆に表現される「福井フォント」が使われた作品は凛然とした雰囲気を纏い、見るひとの目を惑わせる。