破壊と再生を繰り返す、コラージュアーティスト藤田望人の日常。「聴く美術館#12」

福祉実験カンパニー・ヘラルボニーの契約アーティストにフォーカスするポッドキャスト「HERALBONY TONE FROM MUSEUM〜聴く美術館〜」。

俳優・映像作家・文筆家として活躍する小川紗良さんと、ヘラルボニーの代表取締役社長の松田崇弥(たかや)が聞き手となり、アートに耳を澄ませながら、作品の先に見えるひとりの”異彩作家”の人柄や、これまでの人生に触れていきます。

今回ご紹介する藤田望人さんは、コラージュをメインとした作品を手掛けるアーティスト。幼い頃から惹かれ続けてきた「ロゴ」を作品に昇華するまでの道のりや、お母様の静恵さんから見る望人さんの成長をお話いただきました。

#サインポールが導いた出会い

崇弥:今日は九州の大分から藤田望人(ふじた のぞみ)さんという作家さんをお招きしております。私自身、藤田さんの作品のものすごくファンで、いつか所有させていただきたいな思っています。作品としてはコラージュですね。紙の上にさらに紙が重なっているような形で。例えば、リンゴの作品とかはリンゴが切り絵になっていてそれに重なっていまして。本当に面白いです。あと、今日ぜひお話を聞きたい作品があるんです。「ととと」という作品で後ろに「ほほほ」って描いてある作品で、なんで文字が描かれてるのか気になっています。

小川:私も先日、「ART IN YOU」というヘラルボニーの展示で実物を拝見したんですけど、まさにその「ととと」って描いてある作品がぱっと目に入ってきました。どうやって作られてるんだろうと思ってよく見たら、切って貼ってあるんですね。

崇弥:そうなんですよ!ちょっと陰影を感じるような、センスにあふれた作風ですので、ぜひ「藤田 ヘラルボニー」と検索しながら聞いていただけたら嬉しいなと思います。

小川:はい!ということで、本日は藤田望人さん、そしてお母様の静恵さんに繋がっています。

静恵さん:初めまして。

崇弥:初めまして、よろしくお願いします。望人さんは席を立たれてるようですね?

静恵さん:はい。奥のソファで、何かiPadで音楽を聞いてます。ゆったりと(笑)。

崇弥:それはよかった!

小川:なるほどさっきね、事前にご挨拶させていただきました。今日はよろしくお願いします!

小川:今は大分県にお住まいということなんですけど、そちらはご自宅ですか?

静恵さん:そうです!自宅のリビングですね。

小川:おうちでゆったりと過ごされている望人さんなんですけど、現在の絵のスタイルで昔から描かれてたんですか?

静恵さん:いや、コラージュになったのはもうここ数年なんですよね。以前は文字とかお店のロゴマークとかがすごい好きで、最初に描き始めたのは、そういうマークでした。描き始めたのも小学校3年生ぐらいなんですけどね。

小川:そうなんですね。どんなロゴとかマークがお好きだったんですか?

静恵さん:イオンのマークとか、スーパーとか。あと、床屋さんのサインポールや看板みたいなものもです。

崇弥:実はですね、サインポールで思い出したんです。藤田望人さんとの出会いを。ヘラルボニーで、2021年ぐらいかな? ハンカチアワードみたいなのを開催したことがあったんです。何千点もの応募をいただいて、中でもかっこいいと思った藤田さんの作品名が「サインポール」だったんですよね。そこからその作品がハンカチになったり、ヘラルボニーのギャラリーで展覧会やらせていただいたりとか、本当にいろんな形で関わらせていただくようになって。「サインポール」が出会いだったんですね。

「サインポール」Nozomi Fujita

小川:私の手元の資料にも「サインポール」が絵になっている作品があるんですけど、すごくかっこいいですね!床屋さんの入口にある赤・白・青のポールがこんなふうになるんだ!っていう驚きがありますよね。これも全部切って貼り合わせて重ねているんですか?

静恵さん:はい。

小川:へえ、面白いな〜! そうやって街中で目に入ったものを、小さいころから描いたりされていたんですか?

静恵さん:最初はもう、なんかずっと眺めてるだけだったんです。お店の看板とかを見かけると、中に入らずに、ウロウロしながらぼーっと眺めて、ずっと見てるっていうような感じでした。逆に、お店に入りたくても入れないみたいな。

小川:うんうん。

静恵さん:で、中に入れないから、店とかスーパーとかのチラシに同じロゴマークがあるとそれを切って、持たせたりなんかして。買い物に行ったりとか、そこで立ち止まっちゃわないように持って買い物にいっていましたね。

小川:本当にロゴが好きで見てたいんですね!

静恵さん:そうですね。本当にもう、ずっと眺めてる感じでしたね。

崇弥:藤田さんはね、私の兄貴ともすごい似てるなって作風からも感じる部分がすごく多いんです。私の兄貴も、小学校時代の自由帳にロゴマークだらけだったんですよね。東北銀行とか岩手銀行とか、ロッテとか。本当にそのロゴを描いてるんです。その中にたまたま「ヘラルボニー ヘラルボニー」ってふたつ上下で並んだものが何十冊も登場してきたんです。兄貴にとっては会社のロゴとかマークの感覚だったんじゃないかなって思ってたりするんですけど。なので、ああいうその形とか模様とかに執着されるのは、自閉傾向の強い方には多いのかなって。藤田さんの作品を見ると、兄貴を思い出す部分があるなと思います。

小川:へえ〜。ロゴなど最初見ているだけだったのを絵に描いていくって、なにかきっかけはあったんですか?

崇弥:確かに。

静恵さん:手に持たせてたチラシの切れ端を、どうしても失くしてしまうんですよね。「大事なものなのに何で、なくす! 」みたいな感じなんですけど。本人は失くしてパニックになっちゃうから、どうしようもなく手元にあった紙に、私がもうパパって描いたんですよ。そこから今度は私に「描いて、描いて」って。もう、描くのを辞めるとパニックみたいな感じになるので、何時間も描かされたこともありましたね。

崇弥:あははは!すごい!

小川:それはすごい…。

崇弥:どんなロゴ描かれてたんですか?

静恵さん:スーパーのロゴをひたすら描かされてました(笑)。

崇弥:あ、望人さんの声が聞こえてきましたね。望人さんいらっしゃったりするかな? 難しいかな?

静恵さん:のぞく〜ん! のぞく〜ん!来てください!

崇弥::今、望人さんが後ろのソファに座られてるのが見えますね。

小川:ほどちょっと立ち上がったので、何か取りに行ったのかな?

崇弥:スーパーの名前に反応したのかも

静恵さん:かもしれません(笑)。

小川:最初にお母様がロゴを描いてあげてから、どこから望人さん自身が描くようになったんですか?

静恵さん:ロゴを描かされ始めると、本当に何もできなくなっちゃうので、どうにかしないとと思いまして。そんなに好きなら自分で描けばいいんじゃないかと当時、通ってた療育の作業療法士の先生に「自分で描けるように何か訓練できませんかね」と相談したんです。そしたら、一緒になって描く練習を始めてくださって。といっても、激しくウロウロ動き回るので、まずは座るところからの練習でした。そうやって作業療法士の先生には、まずは鉛筆を握るとか、椅子に座るとか、そういうところから訓練してもらって、やっと筆圧ミミズが這ったような弱い感じで何となく描けるようになったのが、小学校に上がってからぐらいだったかな。療育が4、5歳ぐらいからだったので。

小川:じゃあ3〜4年くらいかけてですね?

静恵さん:でも、何となく描けるようになってもまだ慣れていないので、自分でガーッて描き始めたのは小学校3年生ぐらいになってからかな。長い年数かけて少しずつっていう感じですね。

小川:なるほど。そうやって習得して、自分で描くように。

(望人さんが画面の後ろを通る)

小川:あ、望人さんが通られました!

崇弥:どうぞどうぞ!

望人さん:赤いペン。

静恵さん:赤いペンね。はい。(ペンを渡す)

崇弥:ペンを取りに来たということは、何かを描くんですかね? 後ろで机に座られていますけれども。

崇弥:確かに。何か描かれるんでしょうか?

静恵さん:何か描きそうな雰囲気のときは、いつもこんなもんですね。急に何か突然やり始めるので。

小川:へぇ〜! 家にいらっしゃる間は絵を描いてる時間が多いんですか?

静恵さん:「さぁ描きましょう」みたいな感じじゃなくて、今みたいに日常生活の間にちょっと行って、チョロチョロっと描くみたいですね。描いて、また立ち上がって、フラフラしてみたいな、あいだあいだにポンポンって描いたりするので。

小川:へぇ〜! 今回の収録の前も、リンゴの絵を描かれてたっておっしゃってましたね。

崇弥:どんな絵が描かれてるんですか。

(静恵さんが絵を見せてくれる)

小川:わ〜! かっこいい!

崇弥:まさにあの作品と同じリンゴですね。

小川:リンゴのそばにお母様が自己紹介のセリフを描いてくださっています。「僕の名前は藤田望人。好きな食べ物は、リンゴ」。

崇弥:いいな〜! 後で声が聞けたらいいな!

小川:今も後ろで引き続き何か作品を生み出されていますけれども、いつも使う画材はどのようなものなんですか?

静恵さん:基本的にクレヨンが多いんですけど、ボールペンも多いです。

小川:へぇ。

崇弥:先日の「ART IN YOU」(※)の展覧会でも、藤田さんの作品が2作品ともに、一番最初に販売が決まりました。

「ART IN YOU アートはあなたの中にある 」
2023年5月20日〜6月17日まで三井住友銀行東館1Fアース・ガーデンにて開催。

(望人さんがなにか持って画面の前へ)

小川:あ、作品を持ってきてくださったのかな?

静恵さん:わかります?(笑)

崇弥:あ、これ「トイザらス」って書いてある!

小川:本当!「トイザらス」だ! しかもこれ、後ろで今、iPadで描いたものですよね? めちゃくちゃかっこよくないですか!

崇弥:これを見せろって言ってるんじゃないかな。

静恵さん:かもしれませんね(笑)。

崇弥:ぜひ今回の原画の販売益もあると思うんで、トイザらスでお母さんに好きなもの買ってってもらってもらえたらいいなと思いますね(笑)。

静恵さん:検討します!前向きに。ふふふふ!

#忘れられない息子の言葉

小川:こうやって、日々どんどん作品が生み出されていってるんですね。

崇弥:かっこいいからね〜、本当に! 藤田さんの作品は。藤田さんの作品を買ってくださった方は、誰しもが知ってる企業の社長さんだったんですけど「本当に良い買い物をしたと思ってます」って、僕にも連絡をくださったんです。すごいコレクターになられるんじゃないかなっていう雰囲気を感じました。

小川:このPodcastを聞いている方も、もしかしたら藤田さんの作品を手に取る機会があるかもしれないっていうことですよね。

崇弥:いや本当に! 藤田さんの作品は、これからどんどんフューチャーされていくんじゃないかなって予感しています。私も欲しいです。

小川:なんていうか、ヒップホップがお好きな方にも響くんじゃないかなって思っていて。

崇弥:まさにまさに!それこそSHIPSさんで藤田さんの作品がプリントされたロンTが販売されていましたし。本当にね、いつかストリートカルチャーとかスケートボードとかにも、関わっていくんじゃないかなっていう。

小川:スケートボード、絶対いいですよね。この絵柄が入ってたらかっこいいと思います!

崇弥:望人さんは「ここに俺の絵を入れてくれ」みたいなのはあったりしますでしょうか?

静恵さん:本人はどこまで理解してるのかわからないんですけど、今みたいに描いた絵を持ってきたりするようになりました。前は全然そんなことなかったんですよ。それが、描くとが、自分で描いた絵を部屋に配置するっているのはやっていたんですが、そこに「自分から私に絵を持ってくる」っていうのが増えたんですよね。

小川:へぇ〜!

静恵さん:なので、絵がどこか外にでて展示されていることはなんかわかっているようです。もちろん連れて行ける展示は全部連れて行っているので、そこでもわかってると思うんですけど。

小川:例えば、ご自身の描いた絵が服になったり、ギャラリーで飾られているのを見たときの望人さんの反応はどういう感じなんですか。

静恵さん:意外とクールで(笑)。

小川:クールなんですねぇ。

静恵さん:でも、展示の前で本人の写真を撮ると、スーッとピースなんかするんです。「俺の!」って雰囲気はあまりないんですけど、目の前に私が写真を撮ろうとしたらスーッと近寄ってくるので、なにか感じているのかなって。

崇弥:お母様が喜んでいらっしゃる感じとか、そういうのはきっと察していらっしゃるのかもしれないですね。

静恵さん:それはすごく感じます。展示されたり商品になったりしたら、皆さんやっぱりいろいろ声をかけてくださるので、私だったり周りの人たちだったりが喜んでいることに、本人も喜んでる感じがします。とても。

小川:これまでの生活で、本当にいろいろな苦楽をともにされてきたと思うんですけど、特に望人さんと過ごしてきた中で印象に残ってることや思い出深いことはありますか。

静恵さん:これ、本当最近の話なんですけど、春にちょっと私が体を悪くして、2週間ぐらい入院しなきゃいけないことになったんです。

小川:そうだったんですね。

静恵さん:そのときは望人は短期入所といって、施設に2週間に入校してその間に私が入院するっていう段取りだったんですけど、そんなにね、親子で長いあいだ離れたこともないし、ひとりで施設で寝泊まりする生活も初めてだったので、もう私の方がすごい心配で……。前日の夜に、お風呂の介助をしながら「こうしようね、ああしようね」なんて言いながら、せつせつと言い聞かせていたんです。そうしたら「心配せんで!」って急に言ったんですよ。

崇弥:えぇ、素敵!

静恵さん:もうちょっとびっくりして。普段はね、単語で自分の要求を伝える感じなので、会話も難しいような子なんですけど。それが「心配せんで」って言ってくれて、私の中では衝撃で……。もう忘れられないと思います。望人を信じようと思えて、やっと「もう大丈夫」と自分自身の体を心配をすることができました。それは本当に望人のおかげです。

小川:すごいです……。

崇弥:きっと望人さんの中で、いろいろと察する部分があったんですね。そういえば、うちの兄貴が大好きな『ブラタモリ』って番組が終わるときに似た話がありました。『ブラタモリ』が終わるなんて兄貴にとっては相当な出来事なんです。

小川:ルーティーンのひとつですもんね。

崇弥:そう。それで母親が「何月何日にブラタモリ終わるからね、ブラタモリ終わるからね」って何ヶ月も前から言い聞かせていたら、兄貴も「何月何日ブラタモリ終わります!」って言ったりなんかして。でも、本当に番組が終了してからは、一言もブラタモリの話をしなくなったんです。

小川:お兄様も何かを感じ取られて。

崇弥:すみません、もちろん静恵さんと望人さんのお話とはレベルが違うんですけど! 望みさんは、その後施設から戻られたときの様子はどうでしたか?

静恵さん:いや、それが帰ってきたら、望人は6kgぐらい体重が減ってまして……(笑)。

小川:あああ〜!

崇弥:もうショックで喉も通らなかったってことなんじゃないですか?

静恵さん:まぁちょっとね、偏食がね、多いので。出されたものの中で自分が食べられるものしか食べないものですから、やっぱり必然的に体重が減っていくんですよね。自分が食べられるものはちゃんと食べてたんですけどね。6kgも減ってるから一回り細くなってて「えぇ!?」って衝撃でした。でも、あっという間にリバウンドしたんで大丈夫(笑)。

崇弥:よかったぁ。

小川:普段おうちでは、望人さんはどんなものを食べられてるんですか?

静恵さん:麺類とかは大好き。うどんとか蕎麦とか、よく食べています。あとは甘いものが好きで、チョコレート。お菓子は大好きなんです。

# 世界を変えるアートの視点

小川:絵を描くこと以外で、望人さんが好きなことはなんですか? 

静恵さん:iPadでずっとウロウロしながら音楽を聞くっていうのが大好きでね。

小川:音楽がお好きなんですね? 

静恵さん:そうですね。視覚優位の傾向があるので、見る方が強い感じだったんですけど、iPadを手にしてからは教えてもないのに勝手に検索して、どんどん音楽かけてますね。

崇弥:ちなみにどんな音楽がお好きなんですか? 

静恵さん:「おかあさんといっしょ」はやっぱり大好きなので、童謡だったりちょっと子供向け番組のオープニング曲だったりが好きですね。あと『ブラタモリ』で思い出したんですけど、望人もタモリさんがけっこう好き。

崇弥:すごい!本当ですか! タモリさんはね、あのメガネとネクタイ、特にメガネが多分好きなんですよ。イオンとか行くと、メガネ売り場で立ち止まって1時間ぐらいいます。

小川:すごい!

崇弥:絶対買わないのに、めちゃめちゃメガネを吟味してるの。あと優しそうなおじさんが好きなんですよね。

小川:じゃあタモリさんは全て兼ね備えてますね!

崇弥:まさにですね(笑)

静恵さん:『笑っていいとも』ってあったじゃないですか。そのときのテレフォンショッキングの曲なんかも、何度も何回も聞いてます。

小川:確かに中毒性あるというか、ハマる感じ、ありますよね。

崇弥:望人さんとかはやっぱり音楽とか口ずさんだりもするのですか?

静恵さん:音楽はあんまり口ずさまないんですが、謎の言葉のやり取りを強要されます。

崇弥:うちも強要されるなぁ。

小川:どんな言葉なんですか?

静恵さん:望人が「と!」って言うと、私が「ま!」って言わされるとか。「とばさん」って言うと「やだやだ!」って言わんといけんとか、「クリニック!」って言ったら「特許!」って言わんといけんとか、ちょっと脈絡がない(笑)。

崇弥:いや、わかる! あれ、なんなんですかね? うちにもあるんですよ。例えば「朝ご飯ある?」って兄貴に聞かれたら、私は「な〜い!」って言わなきゃいけなくて、それで笑うんですよ。何が面白いのかが私たちにはわからなくても、本人にとってすごく面白いんだろうな。そこがやっぱり知的障害を伴う自閉症の方の、不思議な点というか、私たちが持ってない笑いの感覚へのリスペクトに繋がっていけばいいですよね。

小川:でも、言葉で楽しめる、遊べるってすごくクリエイティブですよね。 

崇弥:本当にそうなんです。なんか語感がいいとか、なんか聞いたときの耳心地がいいとか、そういうヒップホップとかそういうものに通ずるものがあるんじゃないかなと思います。韻を踏むとか。望人さんの「ほほほ」と「ととと」っていうあの作品からも感じました。

小川:さっきお母様と「と」という言葉をやり取りしてるって仰っていましたが、絵の中にも「と」が出てくるので、もしかしたら言葉遊びと同じような感覚で絵を描いているところもあるのかもなぁ。

崇弥:あると思います。。お母様はヘラルボニーと出会ってから、望人さんやお母様自身、周囲の方についてなにか少しでも変化があったと思いますか?

静恵さん:少しでもどころの騒ぎではないっていうか、こうなる運命だったのかなって思うぐらい。やっぱり『サインポール』でハンカチのアワードをいただいたというのは、私にとって大きな、大きな転機だったんです。描けるようになってからは望人がやっぱすごいいろんなところに描いていて。これ、動かしたら見えるかな?

(静恵さん、画面を動かしてご自宅の壁を映す)

崇弥:あぁ!壁中に絵が!

小川:すごい!

崇弥:壁がアートに……。

静恵さん:前の家なんかはもっとすごくて、ふすまとかいろんなところに描きまくってて、私にとっては落描きやいわゆる問題行動の一つぐらいの感覚だったから、アートという観点が自分の中に入ったことによって、すごく世界が変わりました。見方も変わりましたし、人生そのものが変わったと言えますよね。ヘラルボニーさんとの出会いは本当に運命だったのかというぐらい衝撃でした。 

崇弥:ありがとうございます。そう言っていただけて! 本当に素晴らしいアートです。あの金沢21世紀美術館のキュレーターである黒澤さんも絶賛されていたし、やっぱりわくわくする魅力がありますからね。ご自宅の壁も、チャンスがあればぜひ額縁に入れて売りましょう!  いや、それはやり過ぎですけど(笑)。

静恵さん:あはは!

小川:そんな望人さんとお母様がこれから一緒にやっていきたいこととか、ヘラルボニーでこんなことがしてみたいとかあったりしますか?

静恵さん:ヘラルボニーさんは「障害のイメージを変えたい」といつも言ってらっしゃって、本当にそこに共感しかないというか。作品や展示を通しての障害者との出会いは、すごく素敵で、きらきら輝いています。私もそんな出会いの場をたくさん作りたいし、その場に居合わせたいという思いがあるので、そんなチャンスにたくさん恵まれたら嬉しいですね。いろんな人が訪れて素敵な出会いが生まれるアトリエやギャラリーのような場を作ることができたら私自身も楽しそうだなって思うし、ヘラルボニーさんの力で、そんな出会の場面が海外や、さらに広いところで展開されて、いっぱい出会いの場ができたらと願っています。夢です。

崇弥:素敵です!

小川:そして今、望人さんが立ち上がって、ちょっと部屋の中を回っていたんですけど。お声が聞けるかな?

静恵さん:のぞくん!来てくださーい!お願いしまーす。

望人さん:はい。

(答えるが近くには来ない望人さん)

静恵さん:「はい」とは言ってるんですけど。

小川:でも、この距離でも声が聞こえるから、大丈夫そう。そしたら好きな食べ物をお聞きしてみようかな? お母様から聞いていただこうかな?

静恵さん:来てくれる? 来て来て! 最後に来てくれる?

(望人さん、画面の前に)

崇弥:素晴らしい! 

小川:嬉しい!

静恵さん:改めて自己紹介する? 

望人さん:うん。僕の名前は…。好きな食べ物はリンゴが好きです。

(望人さん、戻っていく)

崇弥:ありがとうございます!素晴らしい。

小川:もう役目を果たして。最後にちゃんと聞けてよかったです! そして崇弥さん、藤田望人さんの絵を見られる機会があるんですよね?

崇弥:そうなんです。2023年7月24日でヘラルボニーは5周年を迎えます。それを記念して「異彩の百貨店」というポップアップショップを日本橋三越本店の1階を使って7月26日から8月8日まで開催します。そして、藤田さんの作品をキービジュアルに起用させていただきました。

「奉祝」Nozomi Fujita

小川:お〜!本当にヘラルボニーって描いてありますね!

崇弥:そうなんです。こちら日本橋三越の350周年記念との連動企画という形になっていますので、藤田さんのオリジナルで「350」って描いてあったり「HERALBONY」って描いてあったり「MITSUKOSHI」って描いてあったりと、全て要素が包含されている素晴らしい作品です。藤田さんのこの作品がキービジュアルとして、さまざまなところで展開されますので、ぜひ皆様お越しいただけたら嬉しいなと思っております。

小川:私も絶対見に行きます!皆さんもぜひぜひ足を運んでみてください。ということで藤田望さんそしてお母様の静恵さん、本当に今日は素敵なお話ありがとうございました!

静恵さん:ありがとうございます!

藤田望人 Nozomi Fujita

 

2001年大分市生まれ。3歳の頃、重度知的障害を伴う自閉スペクトラム症と診断される。現在は、社会福祉法人幸福会 やまびこ広場(生活介護)に通所。ロゴマークや文字に強いこだわりを持ち、小学生くらいから好きなものを絵に起こすことをほぼ毎日行っている。描くスタイルも独特で、多動もあって常に歩き回っているが、突然座ったかと思うと描きだす・・といった予測不能の描き方をする。 

『HERALBONY TONE FROM MUSEUM〜聴く美術館〜』は無料で配信中

「アートから想像する異彩作家のヒストリー」をコンセプトに、アートに耳を澄ませながら、作品の先に見えるひとりの”異彩作家”の人柄やこれまでの人生に触れる番組です。

役者・映像作家・文筆家として活躍する小川紗良さんと、ヘラルボニーの代表取締役社長の松田崇弥の2名がMCを担当。毎回、ひとりのヘラルボニー契約作家にフィーチャーし、知的障害のある作家とそのご家族や福祉施設の担当者をゲストにお迎えしています。

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