「ヘラルボニーは関わる人すべてを幸せにした」編集者・軍地彩弓さんインタビュー(前編)

ヘラルボニーを応援してくださっている方々にお話を聞きにいく連載「HERALBONY&PEOPLE」がスタートします。

この連載では、普段からヘラルボニーの活動やビジネスに共鳴してくださっているあらゆるジャンルの皆さんにインタビューをしていきます。アート・ビジネス・デザイン・福祉・文化、さまざまな領域で「異彩」を放つ皆さんにとって「ヘラルボニーとはどのような存在なのか」を伺います。それぞれのライフスタイルや価値観を覗き見しながら、その人ならではの「ヘラルボニー」を紐解いていきます。

記念すべき第1回は「編集者からみるヘラルボニー」と題して、編集者でファッション・クリエイティブ・ディレクターとしても知られる軍地彩弓(ぐんじ・さゆみ)さんが登場。2021年にヘラルボニーの存在を知り、そのビジネスモデルに衝撃を受けたという軍地さん。都内で開催されるポップアップには必ず足を運んでくださっています。

ご両親の影響で子どもの頃からアール・ブリュットなどに触れる機会が多かったという軍地さんに、全3回にわたりお話を伺います。

前編:「ヘラルボニーは関わる人すべてを幸せにした」編集者・軍地彩弓さんインタビュー →現在の記事
中編:審美眼は必要ない。編集者・軍地彩弓さんの「一生モノになるアート購入のすすめ」
後編:軍地彩弓さん「ヘラルボニーの次なる挑戦は、アートの民主化」

障害児教育にたずさわっていた母のこと

 ーーいつもヘラルボニーのことを応援していただいてありがとうございます。イベントにもたびたび遊びに来てくださって嬉しいです。

軍地彩弓(以下、軍地):ありがとうございます。最初にヘラルボニーの存在を知った時から、ヘラルボニーがやろうとしていることは、本当にすごいなと思っていたので。

私が「ヘラルボニー」の存在を知ったのは、2021年でした。それまでも時々ポップアップショップは見かけていて、名前は聞いたことがあったのですが、ちゃんとは知らなくて。

ビジネスメディア「ビジネス・インサイダー(BI)」の浜田敬子編集長(当時)から「おもしろい企業がある!」と教えてもらい、私が担当していた連載で取材に行ったんです。新時代のビジネスモデルを生み出している人たちを取材する「Think Next」という連載だったのですが、そこで社長の松田崇弥(まつだ・たかや)さんにお話を伺いに行ったのが最初の出会いでした。 

ーーその時の記事がこれ("障害者の作品=安い"を覆す、ヘラルボニーが目指す誰もが主人公になれる世界)ですね。今から2年前。

軍地:ちょうどコロナ禍のさなかでヘラルボニーのマスクをつけていましたね。この時、ヘラルボニーのビジネスモデルについて伺って衝撃的に胸打たれたのをよく覚えています。なんと言っても、福祉の領域に閉じがちな障害のある方によるアートをビジネスにしたという点が本当にすごいな、と。

そこまで衝撃を受けたのには、私自身のバックグラウンドも結構影響していると思います。

私は茨城県ひたちなか市で生まれ育ったのですが、母親がボランティアで障害児教育に関わっていたんです。母親は高卒で美容師になって身を立てた人で、どんな人でも分け隔てなく付き合う社交的な人でした。美容院の仕事を辞めた後に、人から誘われてボランティア教育に携わることになりました。障害児教育にたずさわるにあたり、大学の心理学の講座に通ったり、情熱を持って取り組んでいたのを記憶しています。

子どもの頃からそういう環境に身を置いていたので、わりと身近にいわゆる「障害児」と呼ばれる人たちがいました。本当にごく自然に、家族ぐるみで自閉症の子やダウン症の子がいる環境でした。

ーーそれがだいたい1970年代くらいの話ですね。

軍地:そうですね。そのくらいだと思います。私の母親は、歌手・女優で宮城まり子(1920〜2020年)さんが慈善活動として設立した特別支援学校「ねむの木学園」の本をよく読んでいて、彼女をとても尊敬していました。

それもあって、私も子どもの頃から「ねむの木学園」の子どもたちが描く絵をよく目にしていました。もちろん、母親が活動していた障害児教室の子どもたちが描く絵に触れる機会も多かったです

そういうバックグラウンドが私の中にあったので、ヘラルボニーの作家さんたちの作品は最初からフラットに見ていたと思います。

大学生の頃、アール・ブリュットの世界を知る

ーー軍地さんにそういう背景があったとは知りませんでした。

軍地:実は、母親だけでなく父親の影響もあるんです。うちの父親はアートが好きで、小学生の頃から、よく美術館に連れて行ってくれました。その影響もあって家には美術本があり、アートに触れることが多かったと思います。同時に高校時代から澁澤龍彦にハマったので、いわゆるアール・ブリュットの世界に触れたのは1980年代あたりからですね。

当時から彼らの作品を、すごい才能のある人たちの作品、すぐれた異能の作品として捉えていました。つまり、「障害のある人たちの作品」という枠で捉えることに最初から違和感があったわけです。

そういう、子どもの頃からの流れが私の中にあったので、2年前に松田崇弥さんにお会いして、「障害のある方によるアートをビジネスにする」というお話を伺った時は、本当に衝撃的で。福祉の延長ではなく、才能のあるアーティストとして対等にビジネスをするというあり方が、とても素晴らしいなと感じました。

彼らに、私たちには到達できない素晴らしい才能があることは子どもの頃から知っていましたが、それと同時に、彼らの作品が福祉の領域を出てビジネスの領域で生きていくことの困難もよくわかっていたので、なおさら衝撃が大きかったのだと思います。

ーーそうですね。ヘラルボニーは支援の文脈ではなく、あくまでビジネスとして成立させることにこだわっています。同時に、障害のある方が我々に依存するのではなく、私たちが彼らに支えられてビジネスをさせてもらっているという感覚を大事にしています。

アートがホンモノだから雑貨に価値が生まれる

軍地:実は2年前のインタビューの際に松田崇弥さんにお話したことがあるんです。

それは、「ヘラルボニーのショップで、作家さんの作品をアートとして並べたらいいんじゃないかな?」ということ。当時、作品がプリントされた傘やバッグ、ハンカチなどのアイテムをたくさん見させていただきましたが、作品から離れると、どうしても「柄」になってしまうんです。

「柄」をプリントしたグッズは世にたくさんあると思いますが、ヘラルボニーの作家さんの作品はそうなってほしくない。作品そのものの価値を認められ、彼らが単に「グッズの原画を作っている人」ではなく、「アーティスト」として生きていけるようになってほしい。そう取材後にお話ししました

――そうした軍地さんからのアドバイスの影響もあり、現在開催中の六本木ポップアップを始め、その後のリアル店舗においては、実際に原画を見ていただいたり購入していただける機会が増えています。 

六本木ヒルズ ヒルサイド2Fで開催中。会期は1月21日(日)まで。店舗限定の原画作品も並ぶ。

軍地:そうですね、これは、アートと雑貨の関係性をどう考えるか、なんですね。

美術館に行くと、ゴッホの「ひまわり」がハンカチになって売られていますよね。あれは、数百億円の価値が認められている作品があって、その上でハンカチやTシャツがショップで販売されているわけです。その順番を間違えないようにしないといけない。

アート作品自体は高価すぎて買えないけれど、グッズの形でなら自分の生活の中に持って帰ることができる。その喜びを買う場所がミュージアムショップです。アートという「ホンモノ」があるから、それをグッズ化した雑貨にも価値が生まれます。

ーー現在ライセンス事業のみならず、アート事業にも注力し始めています。昨年の7月には、アート部門が新設されました。

軍地:昨年(2023年)は、三井住友銀行東館1Fアース・ガーデンで開催された展覧会「ART IN YOU(5/20〜6/17開催)」と、日本橋で開催された「異彩の百貨店 2023 夏(7/26〜8/8開催)」と2つのポップアップショップに伺いましたが、今のヘラルボニーは「アートを格上げする」を明確に実践していると感じます。明らかに、作家さんたちのアーティストとしての地位が上がってきています。

一昨年(2022年)六本木で開催された「ヘラルボニー4周年記念 The Colours!」の時に「いいな」と気になりつつもバタバタしていて買えずにいた作品が、日本橋の時には値段が倍くらいに上がっていました。価格の差は、目に見える形でアーティストとしての地位が上がった証拠。素晴らしいことだと思います。

これまでも、障害のある方のアート作品は売られてきました。でも、それは、やはり福祉の文脈の中でした。だから価格も安い。対してヘラルボニーは、そこをパーン!と切り離した。ヘラルボニーが、関わる人すべてを幸せにしたのは、その一点に拠ると思います。

福祉という枠ではなくて、「あなたは才能があるからこれだけの対価をお渡しします」という仕組みを作ったのは本当にすごいことだと思いますし、尊敬しています。

ーーありがとうございます。ヘラルボニーの契約作家さんの報酬は、過去2年で8.7倍に増加しました。収入が増え、確定申告ができるようになった作家も複数います。

人との会話が生まれるブランド 

軍地:ヘラルボニーについて、一番強く思うことはその点なのですが、実はもう一つ「いいな」と感じていることがあります。

それは、「広がり」が生まれること。

2年前の取材の時、自分用にマスクとハンカチ、友達へのプレゼントとしてハンカチを購入したんです。マスクはつけていると、見た人が声をかけてくれて、すごく褒められました。ハンカチもそう。友達にプレゼントを渡す時にヘラルボニーの思想を伝えたくなる。説明すると、それだけでみんなが関心を持ってくれます。そして、それを聞いた人は、ヘラルボニーの存在を知って、自分が伝える側になり、次はヘラルボニーのファンになってくれるかもしれない。その意味で、さまざまな「気づき」や「広がり」が生まれる余地がある点も好きです。

ーー単なる「雑貨」ではなくて、ストーリーのある商品として、アートの価値が世の中に広がっていく。それは私たちとしてもとても嬉しいことです。

私たち運営陣は、ブランドの裏コンセプトとして『「伝えたい」が生まれるブランド』を掲げています。誰かの「伝えたい」が生まれることによって、いつかその波が大きくなり、障害のイメージを変えるという大きなミッションの達成に繋がっていると信じています。

第2回では、軍地さんが「絵を買う」という習慣をご自身のライフスタイルに取り入れられるようになった理由について聞いていきます。

→NEXT:審美眼は必要ない。編集者・軍地彩弓さんの「一生モノになるアート購入のすすめ」