fuco:のマルが生み出す華やかな世界。不必要が削ぎ落とされた生活にある必要なアート。「聴く美術館#17」

この春スタートした福祉実験・ヘラルボニーの契約アーティストにフォーカスするポッドキャスト「HERALBONY TONE FROM MUSEUM〜聴く美術館〜」。

俳優・映像作家・文筆家として活躍する小川紗良さんと、ヘラルボニーの代表取締役社長の松田崇弥(たかや)が聞き手となり、アートに耳を澄ませながら、作品の先に見えるひとりの”異彩作家”の人柄や、これまでの人生に触れていきます。

今回のゲストは、華やかな図形が織りなす世界を描く作家、fuco:さんとお母様のやすこさん。ヘラルボニーでもワンピースやバッグとして多くの人が楽しむその作品の源泉を、彼女の多彩な魅力とともにお伝えします。

# わかりづらい世界・わかりやすいマル

小川:「異彩の百貨店」(※)行きましたよ! 素晴らしかったです!

(※7月26日(水)〜 8月8日(火)日本橋三越本店にて開催したポップアップストア

崇弥:ありがとうございます! しかも、原画までお迎えいただいて。アートコレクターデビューですね。

小川:初めてのアート購入だったんですが、それがヘラルボニーさんで本当によかったなと思える展示会でした。

崇弥:ありがとうございます。私も今日の午前中、書籍のサイン会をしてきたんですけど「ポッドキャスト毎回全部聞いてます」っていう方もいらっしゃって。今日の収録もきっと聞いていただけるだろうなと楽しみにしてます。

小川:そんな毎回1人の異彩アーティストにスポットを当て、アーティストご自身、そして作品の魅力を聞く美術館として楽しんでいただくポッドキャストですが、今日はどんな方がゲストなんでしょうか?

崇弥:今日はfuco:さんという、北九州出身、佐賀県にお住まいの作家さんをお迎えしています。ヘラルボニーでトートバッグを出したら瞬時に売り切れになってしまった、本当に人気の作家さんです。

fuco:「シアワセピンク」

小川:この絵柄見た瞬間に「ヘラルボニーで見たことある!」って思いました。ワンピースなども素敵なものがでていますよね。

崇弥:そうなんです。最近はフリーアナウンサーの堀井美香さんが、fuco:さんのワンピースを着てくださったりもして、本当に注目されています。色とりどりなテキスタイルを生み出している作家さんなんですよね。

小川:見た瞬間、ぱっと心が華やぐ感じがしますよね。

崇弥:まさにそうなんです! 本日は、お母様と、ちょっと寝てらっしゃるようなんですけども、fuco:さんご本人にもご登場いただいております。

小川:ということで、fuco:さんとお母様のやすこさんです。よろしくお願いします。

やすこさん:よろしくお願いします。

崇弥:fuco:さんは今、ソファに寝そべりながら、手をばーんと上げて、日向ぼっこをしているような、すごく幸せそうな表情に見えますね。もうリラックスした様子ですね。私が佐賀のご自宅に一度伺わせていただいたときも、まさにこの位置にいらっしゃいました。ソファーが定位置なのかな? がっつりリラックスされてる様子で、ありがとうございます!

小川:お母さん、いつもfuco:さんは定位置がここなんですか?

やすこさん:そうですね。他の家族が座ってると「早くどけ」と言われてます(笑)。

小川:そうなんですね! もう大事な居場所なんですね。

崇弥:うちの兄貴も同じなんですよ! 兄貴もストーブの真ん前を陣取るんです。

小川:岩手ですもんね。ストーブ、大事です。

崇弥:だから、そこは兄貴以外座っちゃいけない場所になってて、私の4歳の娘が座るとすごい剣幕で「どけ!」って。あんなに「どけ!」って言われることもそうそうないから、最初のほうは娘もびっくりしていました。

小川:あ、fuco:さんが起き上がりましたね。あ、再び寝っ転がられて……。あぁ!

崇弥:腹筋運動をしていますね。

小川:元気いっぱいですね!fuco:さんの作品はとっても素敵なんですけど、いつ頃から描き始めたんですか。

やすこさん:学校に行けないときにあまりにも暇すぎて、丸でも描いてみたらと紙とペンを渡したのがきっかけでしたね。高校1年生のときだったので、7年前ですかね。

小川:そうなんですね。そのときから、今のように丸とか四角を描き連ねるスタイルだったんですか?

やすこさん:とにかく暇な時間が苦手で、スケジュールを全部埋めることを必要としてたんですけども、家にいると思考するとかパズルを解くだけだと全然足りず。でも「描く」は意外にも何時間でも続けてくれたので、そこから2、3年は丸だけを描くっていうのをしていました。

崇弥:本当にね、ご自宅へ行くともう巻物? 長い紙に丸、三角、四角がずらっと描かれていました。あれ、どれくらいの長さになりますか?

やすこさん:一番長いのが10m。

小川:すごい!

崇弥:どこでそんな紙を仕入れてくるのかっていうぐらい。もう絨毯なんですよ。もう完全に作品という名の絨毯。

やすこさん:一番よく描くのは1mくらいの紙なんですけど、それだと2時間ぐらいで描き終わっちゃうんですね。もう10mの一番大きい紙を取り寄せて買って、描いてもらって。でもそれも描き終わりました。それも全く隙間なく、全部描いてですね。

小川:すごい…….。今は「シアワセピンク」っていう作品が手元にあるんですが、本当にピンクとか赤とかのカラフルな水玉模様が素敵なんですけど、これもけっこう大きめの作品なんですか?

やすこさん:そうですね。ほとんどが大きいですけども、そのブルーの作品なんかはちょっと小さいんです。

fuco:「マルミックス!」

小川:そうなんですね。

やすこさん:一番よく描くのが110センチぐらいで、それ以外は珍しいサイズになるんです。

小川:そうなんですね。この色彩感覚はどこから生まれたものなのか、お母さんはどう思います?

崇弥::やっぱり「シアワセピンク」もピンクと、ちょっとくすんだ茶色と赤で全部丸を構成するじゃないですか。他の作品も青と黄色とオレンジで構成するとか、何かテーマを決めてるだろうなと思うんですけど、これは一体どういうところから生まれているのでしょうか?

やすこさん:丸が描ければ色はどうでもいいのかなと思ってると、ちゃんと選んでたりもして。色を描いてるのか、形を描いてるのか、それとも何も描こうという気はなくて、他のエネルギーを発散させてるのか。いつも彼女が描くたびに、何が本当にしたいことなのかは、見えるようで見えない感じがします。例えば鉛筆で描いたとしても、やっぱり同じように描くわけですよ。でも、以前に紙のサイズを変えてみようと、ホームセンターでふすま紙を買ってきて描いたときは(丸の)幅がいつもと違ったんですね。

小川:うんうん。

やすこさん:作ったら違ってすごい隙間が開いた丸とか三角になって、そしたら彼女はこの流れを描きたいのか、それとも色を描きたいのか。何を描きたいんだろうっていうのを、描くものが変わるたびに考えさせられます。

小川:画材によって全然変わってくんですね。

やすこさん:鉛筆で描くこともあるんですけど、芯がなくなってもそれでも描き続ける。そんな感じなので、彼女は何がしたいんだろうといつも思います。

 小川:やっぱり一緒に住んでいても、謎が深まる部分があるんですね。

やすこさん:そうですね。描かれたものの中から彼女を発見できるのが、私たちにとっての作品でもありますよね。ただ、彼女は自分で「今日はこの画材がいい」と選択することがすごく苦手なんです。私たちが「今日はこの紙に描いたら?」とか「汚れないように今日はこの画材をここで使ってね」と選ぶことが多いんだけど、本当は彼女はもっといろんなチャンネルを持ってて、彼女が面白いと思うものや、やってみたいことを見つけたいなと思って、アートを通して彼女とアートを作っています。

小川:その選択が難しいというのは、画材だけじゃなくて、暮らしの中でもあるんですか?

やすこさん:そうですね、暮らしの中にもたくさんあります。例えば家事の手伝いも好きで、タオル畳みなんかめちゃくちゃうまいんですよ。

崇弥:上手そう!

やすこさん:でも、洗濯物を取り込むとなると、乾いてないものも時間が来たら取り込んで引き出しにしまってしまうし、ダウンジャケットでも洗濯機に突っ込んでしまう。

小川:たしかにそれはわかりにくいですよね。
やすこさん:何をどういう基準で選ぶべきか、何をどういうふうにすべきなのかが理解しづらいのだと思います。だから、丸をばばっと描き始めたときに「彼女にとって丸という存在は、わかりやすいからこんなにハマってるんだ」っていうのが発見だったんですよ。今まで「木を描いて」って言っても、全然イメージができなくてわかりにくかったんですね。

崇弥:なるほど。

やすこさん:普段の生活の中にはわかりにくいことがあまりにも多すぎて、でもアートっていうのは形になるし、自分でわかるものばかり描けるので、彼女はこのわかりやすさという意味でアートにハマったのかなと。

崇弥:なるほどねぇ。

小川:面白いですね。fuco:さんにとってわかりやすい丸とか四角なんですけど、よく見るとひとつひとつ形も違うし、並び方も不揃いなようでバランスが取れてるじゃないですか。不思議ですよね。

やすこさん:例えば10mの紙に描いたときって、毎日描いても2ヶ月かかったんですよ。

小川:2ヶ月!

やすこさん:そうすると、落ち着いてたんだろう時期は、ぎっしり描いて細かくて丁寧なんだけど、ちょっと荒れるまではいかないけど、大雑把な時期ってやっぱり丸も大きくもなるし、色の塗り方もやっぱり違うし。それが10mの紙で繋がったその2ヶ月間が生々しく伝わってくるというか。綺麗か綺麗じゃなくて、本当に魂、その人がそのままペタッと形になった感じがするんです。

小川:エネルギーがこもってるんですね。ちなみに、その画材っていうのは鉛筆以外だと何を使って描いてるんですか?

やすこさん:鉛筆、水彩、クーピー、クレヨン、アクリル絵の具といろいろ試してみたんですけども、何がやっぱり一番良かったかっていうと、本人が描きたいときにすぐ描けるものでした。私が筆をつけたり絵の具をつけるのを待つっていうのは好ましくない。なので、色鉛筆も削る工程が余計で本人が描きたいスピードに合わないし、つきっきりで誰かがいないといけないんです。そうするとやっぱり、今のところはペンが多いかなと思う。

小川:画材もいろいろ試しながら選んだんですね。

やすこさん:彼女は綺麗なものを緻密に描くというよりは自分のエネルギーを描きたいタイプだと思うので、まずそのエネルギーを阻害しない画材。「紙がないから今日ここで終わりね」ではなく、いくらでも描けるほうがワクワクするんだろうと、そんなものを探すようにしています。

#ポケットはいらない

崇弥:すごいね。fuco:さんのご自宅に行ったときも、こだわりが強いんだなみたいなのは感じました。服のポケットは取っちゃうとかおっしゃっていましたよね? ご家族皆さんの服にポケットがなかったような……。

小川:どういうことですか?

やすこさん:必要なものはいいんですけど、必要じゃないものってやっぱり取りたいんですよ。例えば、タグは全部取りたいですよね。服の横にあるタグとか。

崇弥:ブランドタグとか。

やすこさん:そう。家族全員、取られちゃうんですよね。

小川:すごい!

やすこさん:横に穴が開いた服を私がよく着てるのはそのせいです(笑)。だんだん家族もみんな気にしなくなってきて!

崇弥:あはは!

やすこさん:で、最悪なのがパジャマのポケットですね。パジャマのポケット、使ったことあります?

小川:ないかも。

崇弥:使わないね。なんにも入れないし。

やすこさん:そう。だからそれは、取るんですね。

小川::ポッケを取るってのもハサミとかで?

やすこさん:手で上手に取るんですよ。

崇弥:手で!?

やすこさん:ものすごく器用で。あとベルト通しの紐とかも、使ったことないので不要と。

崇弥:いらないって思うんだ。

小川:面白いなぁ。

崇弥:機能として必要ないんじゃないかって思うものは、ときめかないんだ。もう、本物ですね。

やすこさん:アロマオイルのラベルも全部取られて、何の匂いかわかんない(笑)。

崇弥:ウケる。

小川:作品も丸とか四角とかシンプルな形になっていったのと同じように、暮らしもできるだけミニマルにというか、シンプルになっていくんですかね?

やすこさん:私たちに必要なものでも彼女にとっては必要なくて、反対にたくさん丸を描く必要は私たちにはないですけど、彼女は「これは自分の生活のパーツだ」と決めたら、ずっと続けるわけですよね。「よう飽きんね」ってよく私は言うんですけど、それは彼女にとっては必要なこと。私にとって必要なことが、彼女には必要とは限らないということですよね。

fuco:「ハジメテノシカク」

小川:1日の過ごし方っていうのは、ほとんど絵を描いてらっしゃるんですか? どんなふうに過ごしてますか?

やすこさん:日中は福祉事業所に通っていて、朝から夕方までいます。

小川:そこではどんなことをされてるんですか?

やすこさん:いわゆる福祉事業所で、うちは障害区分が重く生活介護に行っているので、散歩とか行く日とか、プールに行く日とか……。

崇弥:収録でプールに行くこともあるぐらい、プール好きだって噂を聞きました。

やすこさん:そうです。退屈になったりとか、意味がないことさせられてるって感じると、服を破ったり、そういうことが出てくるんですね。なので、彼女にとっていかに自分がしたいことだったり、意味があることを見つけていくかが必要なんです。そこでちょうどよく出てきたのがアートっていうわけですね。

小川:なるほど。

崇弥:ちょうどお母様が後ろで、ずっと上を向きながら、目を開きながら、ずっと聞いてらっしゃいますけど、fuco:さんはお母さんが言ってることとか、把握されながら過ごしてるような気もしますね。

やすこさん:すごい人の話も聞いてます。

崇弥:「今私の話してるな」とか思ってますよね、きっと。

やすこさん:(上を向いているのは)たぶん聞くことに集中してるから、こっち見てないんですよ。

崇弥:なるほど!

やすこさん:なので一緒にオーケストラのコンサートに行くんですけど、オケって1人1人の動きが違って、指揮者の方なんか激しく動いて気になるじゃないですか。それで彼女は明後日の方向を見てるんだけど、ものすごく集中して聞いてるわけなんですね。

小川:聞くときはもう聞くことに集中するっていう。すごいですね。ちなみに絵以外にも得意なことがあると伺いまして、絶対音感があるんですよね?

崇弥:そうだそうだ、思い出した!ご自宅にに伺ったときね、演奏してくれたんですよ。

小川:へぇ!小さいころ楽器を習ってたんですか。

やすこさん:小6から習ってるんですけど、小さいときは聴覚過敏があって、すごく聞こえてるんだろなとは気づいてたんですよね。でも音楽が好きだろうからって流すと、パニックになったりして。なんでかなって思ったら、歌い手が違ってちょっと調が違ったりとか、リズムがちょっと違ったりすると、許せないわけですよ、本人は。

小川:あぁ。

やすこさん:もともとそうやって音にも敏感で、それは生きにくさでもあるけど、それを活かすにはと思ったときに、ちょっとピアノとかを始めてみました。そしたら視覚情報にもすごく強いので、瞬間的に楽譜がわかってすぐに両手で弾けて。

崇弥:すごっ! 面白いね〜!

小川:プロフィールにも「3ヶ月で発表会の舞台に立った」とありますね。

崇弥:あとね、fuco:さんの話で聞きたいことがありまして。fuco:さんって、自分から話しかけることはないけれど、人のことがすごい好きなのかなって、感じるんです。私たちはまだ会話をしたことはないけれど、一緒に過ごしていて楽しそうだなと。でも事前のアンケートの回答で「危険なとき喋ったりもする」とあって、どういうときにお話してくれるんだろうって気になりました。

やすこさん:してほしいことがあるときは一方的にすごく言いますよね。「クーラーつけて!」とか。結局は必要があったら喋るんじゃないかな。私たちが必要なときに「どっちがいい?」なんてきいたら「こっち」って答えるとか。なので、喋らない会話をしているんだと思います。

崇弥:喋らない会話かぁ。深いね。

小川:言葉数自体は、普段は少なめではあるんですか?

やすこさん:少なめです。でも私たちって、言葉通りのことを思ってるとも限らないじゃないですか。

崇弥:もうマサイ族超え!

やすこさん:昆虫並みですよね(笑)。遠くの黒板にスタッフさんが描いてる文字を一生懸命読んでたりします。なので、やっぱりそういう過敏さとも優れているとも取れる部分がこの人たちにはあって、それが彼らの描いたものから「こうことなのかも?」と感じられるのはすごく私にとって面白いんです。音楽でも絵でもそうだし、刺繍もするんですけど、それも面白かったり。

小川:刺繍もされるんですか?

やすこさん:もともと小学校のとき、先生が教えてくれた刺し子をしていたんです。でもある日、大量の糸をいただいて。もう「ここは手芸屋か!」っていいたくなるくらいの量を(笑)。それで何かしようと思ったんですが、いままでやってた刺し子は線があるところしか縫わないんですね。なので一番大きいサイズの四角い木枠を買ってきて、糸と布を渡してみたら、しばらく考えてから、綺麗に枠の中を埋めていったんです。ぎっちり。

小川:埋めていったんですね。

やすこさん:たぶん本人としては丸をいっぱい描いて紙を埋めるような感覚なんでしょうね。埋め終わったら布をずらしてまたぎっちり埋めてというのを作り始めて。

崇弥:すごいね。

崇弥:うん。その通り。

やすこさん:なので、実は彼女の方が「本当はこの人はどう思っているのか」というのをよく見ています。この人は好ましい、好ましくないとか。

小川:気になるエピソードをいっぱいいただいています。パズルも得意で、3時間で1000ピース完成させたって。

崇弥:すごいね!

やすこさん:自閉症のお子さんには多いですよね。パズルが好きって。

小川:集中力がすごくあるんですかね?

やすこさん:うん。なんか視力とかね、本当に8.0ぐらいあるんじゃないかって(笑)。

崇弥:もうマサイ族超え!

やすこさん:昆虫並みですよね(笑)。遠くの黒板にスタッフさんが描いてる文字を一生懸命読んでたりします。なので、やっぱりそういう過敏さとも優れているとも取れる部分がこの人たちにはあって、それが彼らの描いたものから「こうことなのかも?」と感じられるのはすごく私にとって面白いんです。音楽でも絵でもそうだし、刺繍もするんですけど、それも面白かったり。

小川:刺繍もされるんですか?

やすこさん:もともと小学校のとき、先生が教えてくれた刺し子をしていたんです。でもある日、大量の糸をいただいて。もう「ここは手芸屋か!」っていいたくなるくらいの量を(笑)。それで何かしようと思ったんですが、いままでやってた刺し子は線があるところしか縫わないんですね。なので一番大きいサイズの四角い木枠を買ってきて、糸と布を渡してみたら、しばらく考えてから、綺麗に枠の中を埋めていったんです。ぎっちり。

小川:埋めていったんですね。

やすこさん:たぶん本人としては丸をいっぱい描いて紙を埋めるような感覚なんでしょうね。埋め終わったら布をずらしてまたぎっちり埋めてというのを作り始めて。

崇弥:すごいね。

#いつかは海を越えて

小川:音楽も絵も刺繍も、いろんな領域で異彩を放ちまくっている感じがしますね。そういえば、ヘラルボニーとの出会いはいつだったんですか?

崇弥:あれはコンテストかな? 応募いただいたのがきっかけだったのかな。

やすこさん:そうですね。

崇弥:以前にヘラルボニーでハンカチを作るコンテストがあって、その時に応募いただいたfuco:さんの作品がすごく素敵で、なにかご一緒したいなと思ったのがきっかけでした。そこからワンピースやドレスを作らせていただいて、本当にいろんな方が着てくださっています。fuco:さんご自身もいつも着てくださっていますもんね! すごくお似合いです!

小川:fuco:さんがご自身の作品が服になったのを見たときの反応はどんな感じでしたか?

やすこさん:たしか渋谷の店頭で見たのが初めてでしたよね?

崇弥:そうですね! 渋谷のスクランブルスクエアでポップアップを開催したときに、fuco:さんとご家族の皆さんにメインイベントのゲストとして来ていただきました。

やすこさん:その時に、スタッフの皆さんも着てくださっていて、すごく圧巻でしたよね。

崇弥:綺麗でしたよね!

やすこさん:しかも、売り場ともすごくマッチしていて、華やかで光が当たったような感じでしたね。

崇弥:なんかお芝居みたいでしたね。たしかに。

やすこさん:すごく綺麗でした。なので、本人がそこで自分の作品って理解したのか、なんか華やかな場だなって思ったのかはわからないんですけど。とにかく忘れられないくらいの綺麗さでしたよね。

小川:今販売されているのはワンピースですか?

崇弥:ワンピースと、あと先日まで売れすぎて一部店舗でしか売っていなかったトートバッグとか。あと最近は東京・赤坂の積水ハウスの工事現場を美術館にするという企画で、ウォールアートとして展開していただきました。

 

小川:私、それ見かけた気がします!歩いていて「あ、ヘラルボニーだ!」って。真っ先に目に入るところにfuco:さんの「シアワセピンク」がありました。街中にあるのもいいですね。すごく明るい雰囲気になる。

崇弥:元気な気持ちになるよね。まさに「シアワセピンク」。

やすこさん:東京に行った人が写真を撮って送ってくださるんです。そうやって皆さんとの話のきっかけになるような場所にしてくださっていると思います。

小川:これからfuco:さんやお母様がヘラルボニーでやってみたいことはありますか?

やすこさん:まず渋谷に行かせていただいた時に「あんな場所でずっと座ってるなんて大丈夫かな」って心配があったんですね。でもなんだかんだやったじゃないですか。「あ、できるんだ!」という体験を、いつもヘラルボニーさんにはさせていただいているんです。やったことなかったけど、やったらできたという。そういう意味では、彼女はまだ海外に行ったことがないんですよね。自分の描いたものや自分と会いたいという人と会うために海外に行ったら、その数日間を彼女はどう思うのかは見てみたいです。

崇弥:素敵! このあいだもヘラルボニーで契約している作家さん40名近くをお招きして、盛岡にあるヘラルボニーのアートを起用したホテルマザリウムを貸し切って「異彩の感謝祭」というものを開催したんです。そしたら岩手の百貨店の店舗にfuco:さんのファンの方が、おそろいのfuco:さんの服で来てくれたんですよね。

小川:それは嬉しいですね!

やすこさん:「一度会いたかったです」とか「一目お会いしたかったです」とか、前日からメッセージをいただいたりして、そういう方々とお会いすると彼女って本当にファンがいるんだなと。今までは「応援してくださる方」だと思っていたのが「いやいやこれは“ファン”だぞ!」と最近感じています。ファンってなんだろうと思った時に、向こうからもっとこの人のことを知りたい、会いたいという気持ちを持ってくださる方がファンなのかなって、思いますね。

崇弥:嬉しいね。ぜひファンの国境も超えて、いつか10周年のときなんかにできたらいいですね。

小川:本当にヘラルボニーのアートは国を超えて届いていますもんね。

崇弥:うん。fuco:さんは世界に届くと思いますよ。カーテンなどのファブリックになるとか、世界中のブランドがフィーチャーするとか、想像ができます。

小川:どんな文化、どんな暮らしにも寄り添う感じがありますよね。

崇弥:そうだね。シンプルに削ぎ落とされた世界観からそういったものが生まれているんだなと勉強になりました。ポケットの話も含めて(笑)。

やすこさん:たぶん本人はどんな国の人で、どんな人でも構わないと思うんです。年齢も関係なく、フラットに仲良くなれると思います。

崇弥:fuco:さん自身も、fuco:さんの作品も年代や国を選ばない作品ですよね。

やすこさん:そうだといいですね。

小川:これから海を越えていくかもしれないfuco:さんの作品が楽しみですね。

崇弥:最後にfuco:さんから一言いただけたりするかな? 今は必要ないかな? 必要なければ、このままで大丈夫。

小川:目を擦ってゆったりされていますね。今日は素敵なご自宅の風景とともに貴重なお話をお伺いできました。fuco:さん、お母様、どうもありがとうございました!

fuco:

2000年生まれ。ほんの暇つぶしにマルを描き始めて5年。近年はマル以外のモチーフも描くようになりました。マル、サンカク、シカクのモチーフを自由に、長く大きなカンバスに飽きることなく、日々描き続けます。コミュニケーションとして発する言葉は僅かですが、頭に浮かんだであろう言葉を繰り返し呟く事があります。言葉と一緒に、作品が生まれて行くことも。彼女だけが見ている、感じている世界が作品を通じて、ゆっくりカラフルに表現されています。

『HERALBONY TONE FROM MUSEUM〜聴く美術館〜』は無料で配信中

「アートから想像する異彩作家のヒストリー」をコンセプトに、アートに耳を澄ませながら、作品の先に見えるひとりの”異彩作家”の人柄やこれまでの人生に触れる番組です。
役者・映像作家・文筆家として活躍する小川紗良さんと、ヘラルボニーの代表取締役社長の松田崇弥の2名がMCを担当。毎回、ひとりのヘラルボニー契約作家にフィーチャーし、知的障害のある作家とそのご家族や福祉施設の担当者をゲストにお迎えしています。
毎週日曜日にApple Podcast・ Google Podcast・Spotify・Amazon Musicで配信中です。
バックナンバーも無料でお楽しみいただけます。

Apple Music
Google Podcasts
Spotify
Amazon music