自分の作品がマットになった!異彩作家SATOの“喜びの筆”が躍動する【異彩通信#8】
「異彩通信」は、異彩伝道師こと、Marie(@Marie_heralbony)がお送りする作家紹介コラム。異彩作家の生み出す作品の魅力はもちろん、ヘラルボニーと異彩作家との交流から生まれる素敵な体験談など、おしゃべり感覚でお届けします。「普通じゃないを愛する」同士の皆さまへ。ちょっと肩の力が抜けるような、そして元気をもらえるようなコンテンツで、皆さまの明日を応援します。
こんにちは。Marieです。
突然ですが、ヘラルボニーが最も大切にしてることって、何だと思いますか?
もちろん、お客様が手に取りたくなるような魅力的な商品を作ることも重要ですが、何よりも私たちが大切にしているのが、「作家ファースト」という考え方です。アートの魅力が最大限引き出された形で世に出すことは大前提として、作家さんや周りの方の意志に反したアートの扱い方になっていないか、常に自分たちに問いかけながら作家さんと向き合っています。実際にアートを商品や企業とのコラボレーションなどに起用する際は、必ず作家・そのご家族や施設の方と対話の時間をいただいています。
プロダクトが完成したら、感謝の気持ちをこめて実物を作家さんの手元にお届けしています。作家さんの嬉しそうな様子を目の当たりにすると、私たちも幸せな気持ちになります。
今回の異彩通信の主役であるSATOさんも、そんな素敵な笑顔を見せてくださる作家さんのひとりです。
10歳から続く「1日1枚」
ボストンに在住のSATOさんは、先天性低身長症・先天性軽度難聴・知的障害を伴う自閉スペクトラム症の作家さん。自身が10歳のときから「1日1枚」絵を描くのが日課です。
自閉症の方には、一定のパターンやルールにこだわるという特性があります。SATOさんの前にある画材や画板、パレットや水入れまでもが、決まった種類や位置できっちり並んでいます。色が濁るのが苦手で、愛用しているのは主に米国製グランバッハ社の「透明水彩絵の具」。 パレットに色が欠けると気が散ってしまうため、水彩画は24色、アクリル画は7色を出すと決まっているそう。
SATOさんの制作は「その日の図形」「その日の色合い」のイメージだけが最初から決まっていて、そこから絵筆を落としていくことで描かれていきます。同じパレットから毎日違う3〜4色の組み合わせを選び、「円形(またはC型)」モチーフを散りばめ、今日の一枚を仕上げます。
水玉や線が、今にも動き出しそうに躍動する。
SATOさんの作風は、ゆるやかに変わり続けていると言います。
水玉、ジェリービーン形の円、漢字の「一」のような横線、あるいはそれらのコンビネーション。そんな変化を生み出しながら、「今日の形」「今日の色合い」を、毎日描き続けています。その作品は日々の記録となり、描くことでSATOさんの人生は豊かに彩られ続けます。
太陽が登れば、また1枚。また次の太陽が登れば、また1枚、とーー。SATOさんにとって、描くことは生きることとイコールなのだと思います。
ひとつひとつの色と形がいきいきと動き出しそうに躍動する、SATOさんのアート。
「この絵を描いた日、何をしていたんだろう?」「何を感じたんだろう?」そんなことを想像すると、今を生きる自分自身のささやかな日々の積み重ねを、もっと大切にしたいという気持ちになります。
自分の作品がマットに。作家の反応は?
SATOさんの代表作のひとつである「Festival」は、やわらかな円が連なった、まさにお祭りの高揚した空気を感じさせる作品。お部屋を彩るマットやクッションなどのHOMEアイテムに起用されています。
「Festival」が大きく再現されたラグマットをSATOさんにも見てもらうべく、ボストンへ送ると、私たちのもとに一枚の写真が届きました。
「Festival」の原画を手に、ラグマットの上で嬉しそうなSATOさん! こちらのアートマットは岐阜県羽島市の繊維製品メーカーで作られており、SATOさんの魅力である透明感あふれる色彩を忠実に再現しています。
そしてサイズ違いのドアマットも、翌日にはSATOさんのご自宅に到着。
>> ドアマット「Festival」はこちら
思わぬサプライズに、開封前のドアマットを横抱きにして、まるで赤ちゃんを抱っこするかのように、ひとしきりよしよし。これは、「だいじなもの」に対するSATOさんなりの表現なのだとか。
「キッチンマットは、水回りで使うのはもったいない…。」 そう考えたSATOさんのお母様は、SATOさんが寒い日にも足を冷やさず着替えられるように、ベッドの横にマットを敷いているそう。キッチンマットは横幅180cmなので、ベッドの横に敷いてもぴったりなサイズです。
>> キッチンマット「Festival」
そしてこの日、実際のマットを前にSATOさんが描いた「今日の1枚」はーー。
まるで「festival」の色が反転したような、対になるような作品に仕上がりました。
あまり言葉でのコミュニケーションをとらないSATOさんが、この日はご自身の嬉しさをアートで表現してくれたのかもしれないと考えると、これ以上の喜びはありません。
作家ファーストにこだわる理由
ヘラルボニーには、作家さんからお写真以外にもさまざまなお礼の品やメッセージが届くことがあります。
こちらは、SATOさんお手製のクリスマスカード。赤と緑の円が、クリスマスにぴったりなデザインです。
こちらは、原画ポストカード。わざわざ国境を越えて届いたSATOさんからの贈り物に、気持ちがあたたかくなりました。
ヘラルボニーがなぜ、作家ファーストにこだわるのか。
それは、今日ご紹介したSATOさんを初め、アートの作り手であるアーティストへのリスペクトを大切にしたいから。「支援」ではなく「対等」なパートナーとして、ともにモノづくりに取り組んでいるからです。
そして障害という枠を超えて、異彩作家の描き出すアートの魅力に誰よりも熱狂し、語り、発信する存在でありたいと思います。
誠実に、謙虚に。これからも作家ファーストを、ヘラルボニーは大切にし続けます。
SATO
10歳のサマーキャンプで水彩画と出会って以来、自宅で「1日1枚」絵を描くのが彼の日課 。具体的なモデルはなく、その日の心の中にあるイメージに応じてパレットから数色の組み合わせを選び、ジェリービーンズや雨粒を彷彿とさせる水々しいタッチで大判画用紙を埋め尽くしていく。 色相が濁らないよう、米国製の透明水彩絵の具を愛用している。完成した絵を見た人が「きれいねー」と伝えると、嬉しそうに「きれいねー」とオウム返しする。余暇にはボストンのアートクラスで、さをり織り、ピアノ、ダンスを楽しんでいる。
この作家のアートを起用したプロダクトはこちら
クッション「Festival」
ドアマット「Festival」
ラグマット「Festival」
キッチンマット「Festival」