中学3年生・自閉症ギフテッドの作家が定規で描く、緻密すぎる世界【異彩通信#9】
「異彩通信」は、異彩伝道師こと、Marie(@Marie_heralbony)がお送りする作家紹介コラム。異彩作家の生み出す作品の魅力はもちろん、ヘラルボニーと異彩作家との交流から生まれる素敵な体験談など、おしゃべり感覚でお届けします。「普通じゃないを愛する」同士の皆さまへ。ちょっと肩の力が抜けるような、そして元気をもらえるようなコンテンツで、皆さまの明日を応援します。
こんにちは。Marieです。
突然ですが、この作品をじっと見つめてみてください。
絵の中に、ある動物がいるのがわかりましたか?
この作品のタイトルは「カメレオンはどこだ?」。
密林を思わせる鮮やかな色彩と、緻密に描き込まれた図形に潜むカメレオンを描いたのは、現在中学3年生で今年4月に高校生になる若き異彩、柳生千裕さん。358色のカラーマーカーを駆使して、個性的なキャラクターや文字、カラフルな色が特徴の作品を描く自閉症(ASD)2E型ギフテッドの作家さんです。弱冠9歳にして国際的なコンテストでの入賞経験もある彼が、普段どんなふうに作品を生み出しているのか?今回はその制作過程を掘り下げていきましょう。
定規を駆使して描く「ルーラーアート」とは?
柳生さんの独特の画風の秘密は、制作現場にあります。
ずらりとならんだ画材やマーカーと並ぶ、円や不思議なカーブの板。実は、これは定規の一種で、大小の円が並ぶオレンジ色の定規は「テンプレート定規」、曲線を組み合わせた緑や水色の定規は「雲型定規」というものだそう。角がなく滑らかな丸の形は、特に柳生さんが好きな形です。
そんな定規を器用に組み合わせ駆使する「ルーラーアート」は、柳生さんが独自に磨いてきた技術の賜物です。定規で引かれた線に鮮やかな色彩を組み合わせることで、独特のリズムを持つ存在感が生まれます。
ものすごい集中力で、一人黙々と制作に向かう柳生さんは、たくさんの事を同時にする事が苦手。ただ、いちど熱中すると、それを継続して努力し続ける事が得意で、小学4年生から始めたアート制作も中学1年生まで、ほぼ毎日続けていたのだとか。
細かく気の遠くなるような作業を継続して続けられる能力は、まさに「異彩」ですよね。
定規で描いた世界遺産「首里城」は圧巻!
そんなルーラーアートが印象的な柳生さんですが、幼少期は、白黒で棒人間を描くのが好きだったといいます。いまのカラフルな画風は、コピック(カラーマーカー)と出会った9歳から始まりました。
そして彼の代名詞とも言えるルーラーアートが生まれたのは、ある作品がきっかけでした。
沖縄の方から届いた依頼で、火災で消失した世界遺産、首里城を描くことになった柳生さんですが、フリーハンドではなかなか思うように描けなかったといいます。そこでお父様が「定規を使って描いてみたらどうか」とアドバイスしたところ、描きたかった姿の首里城を仕上げることに成功したのです。
この作品はSNSでも反響を呼び、沖縄都市モノレールの首里駅改札内でも展示されています。
このときの定規で描く経験が楽しくて、その後の作品では直線はもちろん、徐々に曲線も定規で引くようになったのだとか。全て定規を使用して描いた「海の中のピース」は、イメージがうまく形になるように試行錯誤を重ねて生まれた、記念すべき一作目です。
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力強い色彩と線の中に見える、海の中の魚やウミガメたちの躍動感が、画面のすみずみまで描き込まれています。近くで見たり、遠くから見たり、図形と色彩が混ざりあう柳生ワールドは、どこから見ても魅力的。
定規で描くことは、数学の問題を解くことに似ている
定規を使うようになる前の作品と、定規を使うようになった後の作品をそれぞれをじっくり見比べてみるのも面白いです。
定規を使うようになる前に描かれた「微生物パラダイス」は、有機的な曲線が密集するように生き物を形作っています。
その後、定規を使うようになると…
曲線と直線、図形の大小とメリハリのある作品になりました。線の変化に合わせて色彩も変化している点も興味深いです。
3月まで中学生だった柳生さんの得意科目は数学。柳生さんにとって、定規を使用することは、絵を描くというよりも図形を組み合わせて数学の問題を解いているような感覚だといいます。円をキレイに収めた時、思い通りの線が引けた時の楽しさは、数学でキチッと答えが出た時の楽しさに似ているんだとか。
色彩に負けず存在感を放つ「目」へのこだわり
作品を描き始めるときの順番にも、柳生さんのこだわりがあるそうです。
お父様によると、動物を描くときは最初に顔の輪郭をとり、次に目を描いていくのだそう。特に柳生さんは目を描くためにとても時間を掛けているとのことでした。
たしかに柳生さんが描く動物たちは、目がとても印象的。こちらの「みつめているゾウ」も、下書きの段階からすでに目力を感じます。
完成した作品を見ても、ゾウの目が鮮烈な色彩に負けず存在感を放っています。
柳生が描く、動物アート。
生き物が好きだという柳生さんは、幼いころから神戸どうぶつ王国や王子動物園に通い、飼育していたハムスターも、誰よりも熱心に世話していたのだとか。
そんな動物への愛情を感じる数々の作品の中には、カメレオンやゾウ以外にもちょっと変わった動物たちが登場します。その一部を柳生さんとご家族からいただいたコメントとともにご紹介します。
「サイといえば大きな角が特徴。角の部分の模様を工夫して特別感を出しました。つぶらな瞳で力強くも可愛らしい作品です」
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「ハシビロコウ、カモノハシ、ツチブタ、ボンゴ、珍獣と呼ばれる珍しい生き物を自分らしく表現しました。ぜひ、それぞれがどこに潜んでいるか、想像を膨らませてみてください」
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「本物のベルツノガエルもとてもカラフルでユーモラスな生き物です。本物に負けない位、カラフルでユニークなベルツノガエルを目指しました。」
ちなみに、冒頭でご紹介した「カメレオンはどこだ?」は、擬態したカメレオンを描いた作品。カメレオンの顔は、実はここに潜んでいました。
もう1作品「珍獣の集い」に登場する珍獣、ハシビロコウ、カモノハシ、ツチブタ、ボンゴがどこにいるか皆さんは分かりましたか?正解はこちら!
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最近は動物以外のモチーフにも積極的に挑戦されており、オンラインストアで販売中の「夏祭りの思い出」といった作品は、また違った新たな魅力を感じさせます。
この春からは高校生となる柳生さん。「高校生になったらアート活動も勉強も、そして人との関わり合いも頑張りたい」と、学生生活への意気込みも語ってくれました。
コピックやルーラーアートとの出会いで進化し続ける柳生さんの異彩は、これからもさまざまな出会いとともにさらに輝いていくのでしょう。
これからも目が離せない15歳の柳生ワールドを、じっくりと堪能してみてはいかがでしょうか。
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柳生千裕 Chihiro Yagyu
2008年生まれ、幼少期にASDと診断される。9歳の時に描いた作品が国際的なコンテストで入賞、以後本格的に絵を描き始める。見た人が楽しくなる作品を目標に、カラフルな色彩と幾何学模様でユニークに表現しています。