可愛らしさと力強さ。 三谷由芙が持つ 「愛され力」 の秘密 【異彩通信#16】
「ねぇ、 あなた素敵ね」 「ありがとう。 あなたも素敵よ」
躍動感溢れる花から、今にもそんな明るい会話が聞こえてきそう。
この作品のタイトルは、 「おしゃべりなバラ」。 何を話しているのだろう...... と想像が広がる、なんともチャーミングな作品です。
強い印象を与えるオレンジや黄色を使って描かれているのに、 やさしく包み込まれるような雰囲気が漂っているのも、この作品の不思議な魅力。
この作品を描いた作家は、 福岡在住の三谷 由芙 (Yuh Mitani)。 HERALBONYでも定番の大人気アート 「りんごのブーケ」 の異彩作家でもあります。 昨年発表された りんごのブーケ」のスカートやブラウスは、すぐに完売。 今年発表された新たなスカートとブラウスも同じく完売しており、 その他アイテムにも多くの関心が寄せられています。
由芙さんの作品には、その可愛らしさに心がふわっとほぐれるような、それでいてその中に、力強さも感じるような、なんとも不思議な魅力があります。
愛らしさと、 力強さ。 由芙さんの作品はどのように生み出されるのか。 今回は、彼女の日常と制作風景、 二つの視点からその魅力に迫ります。
花と、 思いやりと。
「りんごのブーケ」 や 「おしゃべりなバラ」 など、 花をモチーフにした作品を描くことが多い由芙さん。
「花」は子どもの頃からとても大切な存在だったそう。
たとえば、 通学する道の途中で花をつむのが日課だった由芙さん。
そんな中学生だった由芙さんに、 当時の先生は様々な花の名前を教えてくれたそう。 好きなことを伸ばせるように、 何か 「得意なもの」 を持てるように。 そんな先生の想いに応えるように、由美さんはどんどん花に詳しくなっていきます。
その日課は、大人になり仕事で絵画アトリエに通うようになってからも続きます。
アトリエへ向かう道すがら、 道端に咲く花をつみ、 施設の職員さんにプレゼント。 それが由芙さんのルーティンでした。
たとえば、アトリエの入り口に並ぶ靴を、いつもきれいに揃えたり、 床が絵の具で汚れると率先してお掃除をしたり。 由芙さんの行動には、人を笑顔にしたいという深い思いやりの心が込められています。
「可愛い」 が力になる
お花の他にも、由芙さんは可愛いもの全般が大好き。
可愛いもの好きなご両親の影響もあり、 生まれた時からサンリオのキャラクターグッズなど、可愛いものに囲まれていた由芙さん。
特に好きなのは、フランスの絵本のキャラクター 「リサとガスパール」。 偶然、お兄さんが見つけて教えてくれたリサとガスパール展に行ってみたところ、 その愛らしいキャラクターたちに一目惚れ。 それからリサとガスパールは、 いつも由美さんのそばに。
日々の中で立ち止まってしまうことがあっても、リサとガスパールと一緒に気分を上げて、また制作の仕事に励みます。
また「可愛い」という言葉は、 由芙さんとお母様にとって大切なキーワードでもありました。
4歳の頃に大きな病気を経験した由芙さん。 命を救うため、 最善の治療を選択したものの身体に障害を負ってしまい、 以前はできていたことが次第にできなくなってしまいました。 そんな由芙さんの姿を見るのがつらかったお母様は、 療育訓練などに休まず通わせ、 なんとか進行を食い止めようと奔走する毎日を過ごしていたそうです。
そんなある日、お母様がこたつでゆっくり横になっていると、 「おやつよ」 とお皿に入れたアラレを持ってきてくれた由芙さん。
そのアラレを受け取ろうと手を伸ばした時、肘をついて横になっていた体勢のせいで腕が痩れてしまい、アラレを掴み損ねてしまったお母様。 床に散らばったアラレを見た時、 「私は娘に似たようなことを強いてしまっていたのではないか、 無理をさせて申し訳なかった」と思ったと言います。
それから、「娘が 『生きていてよかった』 と思える人生を送ってほしい」 と思い、 「健常者に近づけようとするのではなくて、本人が幸せになるにはどうしたらいいか」をいちばんに考えるようになったのだと教えてくださいました。
そして、閃いたのが 「可愛い」でした。
可愛いものが好きで、また自身も可愛いと言われると笑顔になる由芙さんに対して、 目があったら 「可愛い」、ご飯を食べている時も「可愛い」と、 由芙さんの存在を「可愛い」という愛ある言葉で肯定していくようにしたそうです。
その「可愛い」の力は、 見事に由芙さんの自信や自己肯定感につながっていきます。
ご自宅で、アトリエで。 鏡で自分の姿を見るといつも「あら可愛い!」 と頬に手をあててにっこりする由芙さん。
障害の有無に関わらず、 自分らしく、 自分を肯定して幸せに生きるヒントやパワーをもらえる、なんとも素敵なエピソードです。
「お父さん、今日何食べた?」
たくさん並ぶ料理名に、 お父様への愛を感じます。 絵画だけでなく、 チャーミングな文字からも、由芙さんの温かい人柄が伝わってくるようです。
決めたことはやりきる、 芯の強さ
優しさやあたたかさ溢れるエピソードが多い由芙さんですが、 実は芯の強い一面も。
作品を描いたり、「やる」と決めたことは、黙々と最後までやり切る。 「明日にする?」と言われても、 「いや、最後までやる」と、 自分で終わりと決めたところまでやり切るというこだわりがあるそう。
また、最初の 「絵を描く仕事」として、商店街で大きな筆を使って作品を描く大舞台があった際も、ご家族が 「泣いてしまって、やり切れないかも…」と心配をしていたところ、由芙さんはご家族も驚くような真剣な顔つきで、見事にやり遂げたそうです。
りんごのブーケが生まれるまで
使用する道具は色鉛筆と水彩絵の具。 まず色鉛筆で描き、その上に水彩絵の具を重ねて行きます。 絵の具は、 アトリエの職員のかたがパレットに用意し、 筆につけてくれたものを由芙さんが受け取って、色を乗せていく制作スタイルです。
そうして誕生したのが、 多くの人を魅了し続けている「りんごのブーケ」。2006年に描かれた作品です。
毎日の制作の時間に、 少しずつ少しずつ、じっくりと。 奥のほうに手が届かなくなると、 作品をぐるりと回転させてまた描き始めます。 なので、 実はこの作品には、 天地がないんです。
題材は、図書館から借りてきたリース特集の本に載っていた、 姫りんごのついたリース。 ご本人がリースを見て 「ブーケ」と解釈したためこのタイトルがつきました。 ちなみに、 由芙さんは制作の際、気に入ったものを選び必ずそのモチーフを見ながら描くそうです。
由芙さんの作品から 「やわらかさ」 と 「芯の強さ」 の両方が感じられるのは、しっかりとしたベースの役割を果たす色鉛筆と、 その周りを包み込む水彩絵の具という2種類の道具が、由芙さんの人柄にリンクしているからなのかもしれません。
作品の中で花ひらく 「由芙さんらしさ」
改めて作品を見てみると、 なんだか由芙さんの人柄が、 そのまま作品の中で優しく、朗らかに花開いているように見えてきます。
「りんごのブーケ」 からは、明るい笑顔が浮かんできそうな印象。 その中で描かれた一つ一つの花たちには、力強さや凛とした雰囲気も感じられます。
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「おしゃべりなバラ」は、観る人を優しく包み込むような、それでいて楽しそうな笑い声や、こちらに向かって何か話しかけてきそうな人懐っこさも感じられます。
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さらにこちらの作品のタイトルは「プレゼントとろうそく」
このように、作品を通して、作家と心でコミュニケーションをする。 さらに、作家のことを知った上で、改めて作品から見えてくる 「その人らしさ」を楽しむ。
そしてそのアートを手にしたりまとったりして、作家の想いやアートから放たれるパワーと、 自分との掛け合いを楽しむ。
異彩のアートの楽しみ方は、 無限大です。
この作家のアートが起用されているアイテム
>シルクサテンスカーフ「りんごのブーケ」(Paris Edition)
>サブバッグ 「りんごのブーケ」(M)
三谷 由芙 Yuh Mitani
1988年、 福岡市生まれ。 日記の隅に描いていたキャラクターの絵が養護学校の先生の目にとまり、スペシャルオリンピックス日本・福岡のカレンダーにイラスト採用されたことから、 絵画の仕事を志した。 色鉛筆画や水彩画など淡い色も、鮮やかで太い線のアクリル画も描く。