巧みなしゃべりでも人々を魅了する、異彩作家・奥亀屋一慶の憧れへの挑戦。「聴く美術館#14」
この春スタートした福祉実験カンパニー・ヘラルボニーの契約アーティストにフォーカスするポッドキャスト「HERALBONY TONE FROM MUSEUM〜聴く美術館〜」。
俳優・映像作家・文筆家として活躍する小川紗良さんと、ヘラルボニーの代表取締役社長の松田崇弥(たかや)が聞き手となり、アートに耳を澄ませながら、作品の先に見えるひとりの”異彩作家”の人柄や、これまでの人生に触れていきます。
今回のゲストは、ダイナミックな色彩と構図が特徴的な異彩作家・奥亀屋一慶さんと、彼が目標とする人物のひとりでもある「希望の園」の村林施設長。「絵をたくさん売りたい」と語り、憧れの人の背中を追う奥亀屋さんが目指す、その先とは? ぜひオンエアでご本人の巧みなおしゃべりとともにお楽しみください。
# お守りのレコード
崇弥:本日はですね、過去にご登場いただいた電車が好きな早川拓馬さんやレコードジャケットが印象的だった森啓輔さんが在籍する「希望の園」から満を持して、奥亀屋一慶さんという作家さんをお迎えしています。お名前もかっこいいですよね。紗良さん、一慶さんの作品を実際にご覧になっていかがですか?
小川:色がすごく素敵だなと。そして、人々が手を繋いでいるこの絵には「戦争をしない握手会」というタイトルがついていて、何かメッセージ性を感じる作品ですよね。
崇弥:一慶さんはですね「メリケン首相」なんていう風刺が効いた作品をあまた世に出されている、弱冠21歳とものすごく若い青年でございます。それではお呼びしたいと思います。一慶さんと村林施設長です!よろしくお願いします!
一慶さん:よろしくお願いします!
村林施設長:お願いします!
小川:一慶さん、はじめまして!
一慶さん:はじめまして。
崇弥:緊張してますか?
一慶さん:えー、緊張は、緊張はしてます。
崇弥:緊張はしてるのか(笑)
小川:今日はお母様もいらっしゃっているんですね! ぜひよろしくお願いします。
お母様:よろしくお願いします。
崇弥:私、一番最初に一慶さんにお会いしたときに「いつヘラルボニーは、俺の作品を売ってくれるんだ」とお言葉いただいておりました。ようやく今回、日本橋三越で原画を販売させていただけることになりまして。ありがとうございます。
一慶さん:いえいえ、たくさん売ってほしいっていう、気持ちがあるんです。
崇弥:そうですよね! いやぁ、プレッシャーだな。でも頑張りますので、よろしくお願いします!
小川:崇弥さんと一慶さんの出会いはどこだったんですか?
崇弥:最初は「希望の園」さんが、三重県津市の県立美術館で展覧会をされたときに、ゲストで呼んでいただいたんですよね。お話する機会をいただいたときに、最後に司会の方が「なにか質問ありますか?」聞いたら、一番最初に手を挙げたのが一慶さんで「俺の作品はいつ売るんだ」と(笑)。
小川:初対面で!すごい!
崇弥:一般の方からみたら「この人グイグイいくな」みたいな感じはあったと思う。けどね、そこから苦節2年ぐらいだったかな? ようやくご一緒できることになって、ちょっと懺悔の気持ちも込めて……(笑)。
小川:一慶さんは絵を描くのがお好きなんですか?
一慶さん:大好きです。
小川:いいですね! いつから描いてるんですか?
一慶さん:えっと、高2やったかなぁ? 高2のときに油絵始めまして、最初はずっとペンを描いとったんです。そんで、そこからきっかけで、油絵を始めたっていう。
小川:油絵にしたのは「希望の園」で油絵があったからですか?
一慶さん:あの〜、一慶より、すごい人がおりまして。川上画伯っていう。
崇弥:おお、川上画伯ね!
一慶さん:川上画伯に憧れて、油絵を始めたっていう。
小川:そうなんだ!憧れから。
(編集部注:川上画伯とは「希望の園」在籍の川上建次氏の愛称)
崇弥:村林さんにもぜひご説明いただきたいんですけど、川上画伯は口で描かれていらっしゃっていたんですよね。
村林施設長:そうなんですよ。
崇弥:しかも、ものすごい迫力があるの! 東京藝大でも展示されていたりする、ものすごい作家なんです。村林さん、ちょっとだけ川上画伯と一慶さんの関係を伺ってもよろしいですか?
村林施設長:川上画伯は、笑いながら絵の具をビチョビチョやって絵を描いてるんですけども、評価が高いじゃないですか。そういう人になりたいっていうのがあって、周りの早川拓馬くんとか森啓輔くんとかも油絵をやってるじゃないですか。で、川上さんにだんだん憧れていって、周りの先輩たちもやってるから「高校入ったら油絵を僕もやるんだ」っていうんで、そろそろやってみようかっていうんで、高2くらいから始めたんですね。
通称「川上画伯」こと、川上建次氏
小川: 川上画伯も「希望の園」にいらっしゃるんですか?
村林施設長:そうです。ただ川上画伯は、残念なことに2022年の3月にお亡くなりになってしまいまして。一慶さんもお葬式に行きました。で、川上さんはね、大事にレコードを集められたんですよ。幼少のころに買ったレコードをアトリエでかけて、奮起して絵を描いたんですね。それで、一番好きなのが「赤いヘルメット」っていうレコードでなんですが、一慶さんが「このレコードは私が受け継ぎます」と。
小川:かっこいい!
崇弥:すごいね。
村林施設長:「私がこれから管理させていただきます」と。
崇弥:管理まで!
村林施設長:「ぜひ家に置かせてほしい。これをお守りにするし、川上画伯を目標に描くために、この『赤いヘルメット』は、僕が」と。家では聞きながら描いてるのかな?
お母様: 額に入れて飾ってあります。
崇弥:額に。「希望の園」は、本当にノンフィクションドラマのようなことが巻き起こってるんですね。
小川:憧れの作家さんが愛していたレコードを引き継ぐって、すごく嬉しいことですよね。一慶さん?
一慶さん:嬉しいし、気持ちはずっと上に、行ってるんです。
崇弥:「気持ちは上に行ってる」っていうのは、俺はもう川上画伯を超えていくぞっていう気持ち?
一慶さん:そうそうそうそう!
崇弥:おぉ!いいねぇ。
一慶さん:川上画伯より、俺は上に行くぞっていう、気持ちがあるっていう。
崇弥:すごいな〜! 凄まじい向上心!
小川:一慶さん、私は油絵を描いたことがないので難しそうに思うんですけど、最初やってみてどうでしたか? 難しかったですか?
一慶さん:最初は、油絵って難しいっていうイメージがないっていう。油絵っていうのは、一慶の場合は、3度塗りっていうんを、するんです。ひとつ塗って終わりじゃない。もう一つ塗って、塗って、上に塗る感じで、いく感じ。
崇弥:おぉ〜! なんかいいねぇ。
小川:油絵、楽しいですか? どこが楽しいですか?
一慶さん:油絵塗ると、他の人の気持ちがよくわかるっていう。
崇弥:本当に? そうなんだ、すごいね。
村林施設長:すごいじゃん
一慶さん:人の真似はしないっていう。
崇弥:うん。
一慶さん:せやから一慶の場合は、人の気持ちを真似しない色を作るのが、自分の役目やと。
小川:かっこいい。自分なりの色を……。
崇弥:どうですか? やっぱりサラさん自身も監督やクリエイターとして活動されている身として、刺激を受けますよね?
小川:自分なりの色を作るって、一番難しいですからね。憧れの人から刺激を受けて、そこに近づこう、超えようと思って、模索する気持ちはすごくわかるというか、尊いなと思いますね。
# 戦争をしない握手会
Ikkei Okukameya「メルケルとジョンソンにジャズドリームを案内するジョムスナカシマ」
崇弥:あと一慶さん聞きたいなって思ってたのは、作品自体が凄まじい社会性を帯びているじゃないですか。例えば、今手元にある作品は、色とりどりの中にたくさんの人が美しい表情だったりハートだったりいろんな模様があるんですが、タイトルは「メルケルとジョンソンにジャズドリームを案内するジョムスナカシマ」。社会への主張だったり、この社会的なものに対するアンチテーゼだったり、一慶さん、これはどういうところからインスピレーションが生まれてるんでしょうか? お母さんにも聞きたいところでもあるんですけども。
一慶さん:どういう……。
崇弥:どういうところからこういうテーマを描きたいなと思って、大統領だったり、政治家だったりそういった人を描かれてるんですか?
一慶さん:うーん。テレビとかニュースとか、社会情勢のテレビを見て、これやったら描こうかなっていうイメージを頭に浮かんで、描いとるっていう。
小川:テレビとかで、国際情勢を良く見てるんですね。
崇弥:お母さん、一慶さんはもともと社会的なところにもともと興味があったのでしょうか?
お母様:そうですね。テレビを見た後に「あんなことしとったらあかん」とか、自分なりにブツブツ言ったりはしています。基本的に、平和主義ではあるんですけど。
小川:先ほども「戦争しない握手会」っていう絵がありましたが、一慶さん、この「戦争をしない握手会」っていうのはどういう想いで描いた絵ですか?
一慶さん:戦争をして、戦争をしとる作品があって、握手をしたら仲良くするっていう、気持ちで描いたっていう。
小川:手を取り合って、仲良くしたいっていう願いなんですかね。
一慶さん:うん。で、一慶、もうひとつ憧れている人がおりまして。
崇弥:ほう。
一慶さん:これはね、ジョン・レノンさんっていう人がおって、歌を聞いて、イメージに、こういうのを描きたいんやなっていうイメージが浮かんで描いた作品。
Ikkei Okukameya「ビートルズのカメラマンをする総理大臣」
小川:ジョン・レノンかぁ。何ていう曲か覚えてますか?
一慶さん:イマジン
小川:まさにですね。
崇弥:ジョン・レノンはどこで知ったんですか?
一慶さん:あ、レコードだ!
小川:あぁ、やっぱり!希望の園にはたくさんレコードがあるって前も聞きました。森啓輔さんとかもね、レコードを描いたりして。
崇弥:確かに。逆に森啓輔さんや早川拓馬さんに対してはライバル心みたいなのはありますか? ないかな?(笑)
一慶さん:せやから森啓輔くんのような作品じゃなくって。2人に負けないような気持ちで描いとるっていう。
小川:いやあ、希望の園の中でも、いいライバル関係があるのかもしれないですね。仲間でもあり。素敵だね。皆さん仲がいいんですか?
一慶さん:みんなとは、お喋りしながら、こういうのをしながら、アドバイスしながらずっと描いとるっていう。
2022年10月に阪急うめだで開催したライブペイントの様子(左から早川拓馬、奥亀屋一慶、森啓輔)
崇弥:素敵な関係だね。
小川:「希望の園」にいるときは、ずっと絵を描いてるんですか? 他のこともやるんですか?
一慶さん:他のことは、一切やらない。
崇弥:すごいな、かっこいいな! お母さんにも聞きたいんですけど、一慶さん自身のこの面白いキャラというか、いろんな人の心をつかむのは昔からのものなんですか?
お母様:そうですね、人と関わることが大好きで、本当に人に関わるために、いろいろ自分で動いて、やってますね。旅行に行った先でも「お宅はどこから来たんですか?」とか(笑)。
崇弥:面白いなぁ! 村林さんは忘れられない一慶さんとのエピソードなどはありますか?
村林施設長:いっぱいあって思い出せないくらい(笑)。展覧会で香川県に行ったときに、岡山から香川に行く電車が海の上を通ったんですね。その海を見ようとずっと窓際に僕と森啓輔くんとヒカルちゃんと並んでて。
崇弥:あのヒカルちゃんか!
(注:森啓輔さんが思いを寄せる希望の園在籍の女の子。#6では森さんとヒカルちゃんにまつわるエピソードが語られていますのでぜひ合わせてお読みください)
村林施設長:で、一慶さんが立ってる大学生の人に「良かったら座ってください」って言ってその人が「いいんですか?すいません」って案内されたのが、啓輔くんとヒカルちゃんの間。
崇弥:あはははは! だって、森啓輔さんってヒカルさんに想いを寄せてるってラジオでも宣言されてましたよね? その間に突っ込むのは相当いいですねぇ〜!
小川:おでかけ先でも、いろんな人に声をかけるのがお好きなんですか?
村林施設長:大好きですね。
小川:すごいコミュニケーション力なんだなぁ。
村林施設長:あれ困るんだよなぁ(笑)。サウナとかでもさ、いろんなタイプの人に平気で声かけるわけ。そのときはちょっとね、他人のフリしちゃうよね(笑)。
崇弥:どんな声のかけ方をされるんですか。
村林施設長:「キレイな肌をされてますなぁ」とか!
崇弥:あぁ〜! 想像できるかも!
小川:ところで、一慶さんが関心を持ってる最近の社会の出来事とかあったりしますか。最近ニュースで見て気になることとか。
一慶さん:やっぱり鉄砲かな。ロシアの戦争かなぁ。
小川:そうですよね。平和の絵をね、描かれているから。
崇弥:今、ウクライナをテーマに描こうかなとか思ってたりするんですか?
一慶さん:するなぁ。
お母様:描いたよね。
小川:あ、描いたんですか?
一慶さん:描いたなぁ。
お母様:戦争が始まったときに、家で「戦争をしない握手会」を描き始めたんです。そこから、わりと同じような(テーマで)描いてますね。
Ikkei Okukameya 「戦争をしない握手会」
崇弥:素敵だね。でも本当に大事だもんなぁ。
小川:そうやって絵にすることで、メッセージがいろんな人に届いて。ヘラルボニーが扱う作品って、海外の方も購入されるじゃないですか。また海を越えて届くかもしれないですもんね。
崇弥:そうですね。一慶さん、どんな人に買ってもらいたいとか、ありますか?ギャラリストのメンバーにも伝えておきます。
一慶さん:やっぱり、金持ち。金持ちの人には、買ってほしいかなぁ。
(一同爆笑)
崇弥:ちょっと、もう! いや、でも大事だからね! お金持ってる人には、出してもらわないとね!それは本当その通り。
小川:お金を持ってる人の周りにはね、いろんな人がいて影響力がありますから。
崇弥:たしかに。そういう人たちにも伝えていけたらいいですよね。あとはどんな人に買ってほしいとかありますか?特定の人とか、芸能人でもいいし。
一慶さん:子どもにも、一慶の絵をやっぱり知ってほしいかな。
小川:それはいいですね。
崇弥:めちゃくちゃいいじゃないすか。確かに学校とかね!
一慶さん:子供たちにもぜひ「握手会」っていう作品をやっぱ周りの大人たちにも、いっぱい知ってもらいたいっていう思いはある。
崇弥:めっちゃ大事だね。
小川:そうやって子どもたちにも伝えていくために、これから描いてみたいとか、ヘラルボニーでやってみたいことってありますか?
一慶さん:1枚でも多く作品を売れたら、ええなぁと思ってるな。
崇弥:売るぞという気持ちが素晴らしい! ここまで売りたい気持ちが強い作家さんはね、ヘラルボニー中でもいないんじゃないかな。ありがたいことですよ。このぐらいの気概を持って、私たちも挑まなきゃなと思います。たくさんの人に届けるってことが大事なので。
# あこがれの人を超えて目指す場所
小川:一慶さんは今までもいろんな賞を取られたり、ヘラルボニーでも展示されたりしていますが、2023年の3月に東京都江東区の富岡八幡宮で大きな絵馬を描かれたんですよね?
崇弥:大きさもすごいよね。
小川:絵馬としてはすごく斬新な絵柄なんですけど、これはどういうイメージで描いたんですか?
一慶さん:これは、うさぎと、亀が競争しとるっていう。
小川 :本当だ。うさぎと亀がいますね。その亀の後ろに人がいるんですけど、こちらは?
一慶さん:これは、自分!
小川 :自分が入ってるんだ!
一慶さん:つまり、お祝いをしとるっていう。
小川:一緒にお祝いをしてるんですね。めでたさが伝わってくる、ハッピーな絵ですね!
崇弥:素敵だなぁ。一慶さんはこれから「こんな場所に俺の絵を出したいんだ」みたいな希望はありますか?
一慶さん:やっぱ、海外展覧会したいな。
小川:いいですね!どこでやりたいですか?
一慶さん:ドイツ!
小川:ドイツ。なぜドイツなんですか?
一慶さん:村林さんのきっかけでもあると思う。
崇弥:村林さんとドイツ? どういう関係が?
一慶さん:せやから村林さん、大学へドイツいっとったと思うんだけれど。
小川:そうなんだ。
崇弥:あれ、村林さん、大阪の芸大だと思ってました。
村林施設長:その後ね、ドイツで2年間ぐらい活動してたんです。
崇弥:そうだったんですね!
村林施設長:それで(奥亀屋さんが)「村林先生が行ったドイツで僕もやりたい」と。
崇弥:いいねぇ。川上画伯といい、村林さんといい、いろんな人が背中を見せてくれて、それを追い抜いていくってことですもんね。
村林施設長:そうそうそう。
崇弥:ね!超えましょう。
小川 :いやドイツで一慶さんの展覧会すごくいい感じはしますね
崇弥:うん。私たちヘラルボニーも、来年ヨーロッパへ行けたらいいなと思って今いろんなリサーチをしているので、ぜひあちらでも展示をやれたらいいですね。
一慶さん:ぜひヨーロッパにも、一慶の作品が、いっぱい、知ってもらえるような作品をいっぱい描くんで、そのときは、よろしく、お願いいたします!
小川 :力強い!
崇弥:あっはは!すごい営業マンですね。
一慶さん::僕も行きますんで。
崇弥:ね! もちろん。
村林施設長:そのときは僕も行きますんで(笑)。
崇弥:確かに!お母様にも来ていただいて。
お母様:行きたいでーす!(笑)
崇弥:お母様はどうですか?これからヘラルボニーで、一慶さんと一緒にやってみたいこととかありますか。
お母様:この子が自己実現というか自己解放して、何か好きなことができてるっていうことが一番、私としてはすごい嬉しいことです。それでチャンスをいただけたら、いいかなと思ってます。
崇弥:お母様としても、絵に限らず一慶さんと、忘れられないエピソードはありますか?
お母様:レコードをすごく集めてるんですけど、レコード収集が本当にもう止まらなくて! どこまでいくのかなってちょっと私は心配になっております(笑)
小川:現在進行形のエピソードですね(笑)。レコードを眺めるだけじゃなくて聞いたりもするんですか? 一慶さん。
一慶さん:えー。聞くのも大好きだし、洗うのも大好き。
崇弥:洗う!?
一慶さん:うん。えー、うん。レコードを聞くじゃなくって、洗って「ええ音やなぁ」っていう。
小川 :初めて聞きました。すごいですね。
村林施設長:レコード買いにいくじゃないすか。で、おうちに帰って、レコード出して自分でクリーナーで拭くと。そこから買ったものを全部メモするんですよ。何を買いました、レコード番号なになに、レコード会社どこどこ、発表年月いついつ。それが終わって「レコード買いに行きました」が終わるの。
小川:そこまでがもう欠かせない作業なんですね。
お母様:夜中の2時ぐらいまでとかね、やったりしてますね。
崇弥:すごい収集癖だね。
小川 :レコードを選ぶ何かポイントはあるんですか。
一慶さん:う〜ん、ジャケットで選ぶかな。
崇弥:やっぱりジャケ買いなんだ。
一慶さん:これ、これが面白いっていうジャケットがあったら、買うかなぁ。
崇弥:玄人だな、完全に。すごい。
小川:マニアですねぇ。いやあ素敵。これからもそんなレコードジャケットからインスピレーションを受けていろんな作品が生まれるかもしれないですよね。
崇弥:一慶さん自身として、おじいちゃんになる頃とかどんなふうになってたいんですか?
小川:どんなおじいちゃんになりたいか。
一慶さん:う〜ん。野田さんのような……
崇弥:野田さん?
一慶さん:レコードをいっぱい集めるのを、やっぱもっとしたいなぁと思っとるなぁ。
(お母様の笑い声)
崇弥:野田さんはどんな人なんですか?
一慶さん:一慶の超えるっていうイメージには、ある。
崇弥:あぁ、野田さんも!
小川:まだ超えたい人がいるんですね。
崇弥:野田さんも超えちゃうんだ、いいね! 野田さんは誰だろう福祉施設の方?それともお知り合い?
一慶さん:アトリエの、大家さん。
崇弥:あぁ! あのおじいちゃんだ!カメラを持ってる、あの、たくさんレコードをお持ちだっておじいちゃんのことですよね。そうなんだ。
小川 :身近に超えたい人が本当にたくさんいるんですね!なんて刺激的な場所なんだろう。
崇弥:向上心が増える場所なんだなぁ。
小川 :「希望の園」のすごさも感じますね。
崇弥:うん、感じた。
小川:これからも一慶さんの作品をとても楽しみにしてますし、ヘラルボニーでは、どんどん一慶さんの作品が売れるように、願ってます!
崇弥:頑張らなきゃいけない。本当に!プレッシャーですが、よろしくお願いします。
一慶さん:よろしくお願いします。
text 赤坂智世
奥亀屋一慶 Ikkei Okukameyama
2015年にアトリエで絵画制作を始める。当初は油性マジックペンを使ってカラフルな絵を描いていたが、2019年に油彩に転向。政治や社会情勢に強い関心があり、興味ある人物と世の中の出来事に、空想と妄想を混ぜ合わせた世界を表現する。大胆な色彩構成のなかに描かれる人物や動物は混沌の中にいるはずがどこか和気藹々と楽しげで、作家のにっこりとした朗らかな表情と重なる。空想力が豊かな彼は、デタラメをあたかも事実のように話してみたりと、巧みなしゃべりで周囲を魅了する。
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「アートから想像する異彩作家のヒストリー」をコンセプトに、アートに耳を澄ませながら、作品の先に見えるひとりの”異彩作家”の人柄やこれまでの人生に触れる番組です。
役者・映像作家・文筆家として活躍する小川紗良さんと、ヘラルボニーの代表取締役社長の松田崇弥の2名がMCを担当。毎回、ひとりのヘラルボニー契約作家にフィーチャーし、知的障害のある作家とそのご家族や福祉施設の担当者をゲストにお迎えしています。
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