描くことで「否定の声」をかき消す。異彩作家・笠原鉄平の世界【異彩通信#4】

「異彩通信」は、異彩伝道師こと、Marie(@Marie_heralbony)がお送りする作家紹介コラム。異彩作家の生み出す作品の魅力はもちろん、ヘラルボニーと異彩作家との交流から生まれる素敵な体験談など、おしゃべり感覚でお届けします。「普通じゃないを愛する」同士の皆さまへ。ちょっと肩の力が抜けるような、そして元気をもらえるようなコンテンツで、皆さまの明日を応援します。

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こんにちは。スタッフのMarieです。

今回、「異彩通信」の主人公に選ばれたのは、異彩作家・笠原鉄平(Teppei Kasahara)。まずは彼の作品をご紹介しましょう。
笠原鉄平「迷路で大いに遊んで下さいな!!」
 0.03㎜~0.7㎜のミリペンを使って、空白を埋めるように「人間」「動物」「木」「ロボット」などの個性的な群像が描かれます。まさに唯一無二の存在感を放つ作品です。

幼少期から絵を描いて育った笠原さんは、人のコミュニケーションにつまづき、20代で統合失調症を発症。上京先からご実家に戻り、絵を再開したという経歴の持ち主です。

日頃からたくさんの雑誌や漫画を読まれるそうで、それらの記憶と、題材にしたい写真との掛け算で、デフォルメした独自のキャラクターが生まれるのだとか。

異彩作家の創作スタイルに着目した展示会

ところで、現在開催中の「異彩の軌跡展」はもうご覧になりましたか? 

これまでも様々な展示会を開催してきたヘラルボニーですが、今回の「異彩の軌跡展」がテーマにしているのは、「アートが生まれる過程」です。

「画材を落とす」
「寝転びながら」
「ひたすらに繰り返す」

そんな異彩作家の独特な創作スタイルに着目し、作品そのものを鑑賞するだけでなく、創造性や多様性に溢れた「軌跡」を体験いただける展覧会となっています。

展示会の開催を記念して、2023年12月12日・13日には、今回の主人公笠原哲平さんによるライブペイントが開催されました。

今回はそのライブペイントの模様を、特別なエピソードを添えながらご紹介。異彩作家・笠原哲平を紐解いていきましょう。

真っ白な壁に生み出されるキャラクターたち

この日、キャンパスとして用意されていたのは真っ白な壁。来場者のリクエストに応えながら、来場者の好きなものとその人自身を掛け合わせたオリジナルキャラクターを笠原さんが次々と描いていきます。

なんでも、午後1時から夕方6時まで、休憩もなくぶっ続けで描かれていたとのこと!すごい集中力、まさに異彩……
こちらが実際に笠原さんが描いたキャラクターたち。一つとして同じものはなく、どれもいきいきとした表情ですよね。

「笠原さん、私のキャラクター、描いてもらっていいですか?」

せっかくなので、会場にいたヘラルボニーのメンバーもリクエストさせていただきました。

「私は牛が好きで…」と北海道出身のYukaさんが伝えると「牛かあ…。写真見せてもらっていいですか?」と笠原さん。

その場で検索した画像をお見せすると、画像とYukaさんを交互に見ながら、スルスル描き進めていきます。

他のメンバーも「ラーメンが好きなんです」「私はクリスマスが待ち遠しいので…パーティー!」と好きなものをリクエスト。

今回笠原さんにキャラクターをリクエストしたヘラルボニーメンバーは6名。
一体どんなキャラクターが生み出されたのでしょうか。そして完成したキャラクターがこちら!

全員オリジナルキャラクターに変身!


Yuka / リクエスト「牛」

Shintaro / リクエスト「ラーメン」

Shizuka / リクエスト「クリスマスパーティーをする私」

Naho / リクエスト「象」

Takaya / リクエスト「ホタテ」

Nahoko / リクエスト「逆立ち」
ヘラルボニー代表・Takayaさんは上裸のホタテに(笑)。そして最後のNahokoさんのリクエスト「逆立ち」は、まさかの壁を飛び出して床面へ! 

それぞれのメンバーの雰囲気や特徴を絶妙に捉えていて、見ているだけで元気がもらえるキャラクターたちが生まれました。

描くことで自分を否定する声をかき消す

ここまでの写真を見ていてお気づきの方もいるかもしれませんが、笠原さんが描くキャラクターは、みんなピースサインをしているんです。

笠原さんご本人に伺うと「どんな絵を描こうかと母と一緒に話していたときに、明るい絵がいいなってピースサインを描くことに決めました」と教えてくださいました。

来場者のさまざまなリクエストから生まれた、ピースサインを掲げたキャラクターたち。壁だけでは描ききれず、床までびっしりと並ぶその様子は、それぞれの人が持つ個性の素晴らしさを感じさせてくれる光景でした。

そして、笠原さんにとっても描くことは大切な意味があります。

統合失調症による幻聴は、時に自分を否定するような声となって聞こえてくると笠原さんは言います。そんな声をかき消し、自分を肯定できるのが絵を描く時間なのです。

他の異彩作家の作品を見ていてもつねづね思うのですが、生きることと描くことが密接に関わっているからこそ、異彩作家は言葉にし難い強い魅力を放つのだとあらためて実感したライブペイントでした。

そんな笠原さんの魅力に満ちた作品ですが、なんと現在はキャラクターに来場者が色を塗ることができる来場者参加型のエリアとなっております。
「異彩の軌跡展」最終日は2024年1月31日(水)までと残りわずか。

笠原さん以外にも、異彩作家たちの作品を生み出す軌跡を「描く方法」「描くモノ」「描く目的」「描く場所・空間」の視点でご紹介しています。
他にも異彩作家の創作過程を追体験できる展示をご用意しておりますので、ぜひこの機会に足を運んでみてください。

■異彩の軌跡展 概要

主催:ITOCHU SDGs STUDIO
協力:株式会社ヘラルボニー
期間:2023年12月12日(火)~2024年1月31日(水)
時間:11時~18時
休館日:毎週月曜日(月曜日が休日の場合、翌営業日が休館となります。)
会場:ITOCHU SDGs STUDIO GALLERY(東京都港区北青山2-3-1 Itochu Garden B1)
料金:無料
詳細はこちら

笠原鉄平

PICFA(佐賀県三養基郡)在籍。
1977年生まれ。彼が真っ白いキャンバスに表現するのは、0.03から0.7mmまでのペンで描く唯一無二の個性豊かなキャラクター達。それぞれ表情や格好が違い、画面の中で踊っているように表現される。

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