異彩作家・GAMONは、見るものを摩訶不思議な世界に誘う【異彩通信#14】

「異彩通信」は、異彩伝道師こと、Marie(@Marie_heralbony)がお送りする作家紹介コラム。異彩作家の生み出す作品の魅力はもちろん、ヘラルボニーと異彩作家との交流から生まれる素敵な体験談など、おしゃべり感覚でお届けします。「普通じゃないを愛する」同志の皆さまへ。ちょっと肩の力が抜けるような、そして元気をもらえるようなコンテンツで、皆さまの明日を応援します。

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「無題」原画作品

乾いた夏の風や、異国のお祭りの熱気、のような雰囲気を感じるこの作品。

今にもニョキニョキと伸びてきそうなビビッドな色使いの自由な線に、弾けそうな小さな粒たちにも見えます。これらは植物や種でしょうか?

眺めていると、頭の中でさまざまな想像が踊りだしてきます。

この特徴的な色彩感覚と、摩訶不思議な造形。異彩作家・GAMONの作品は、強烈な引力で、わたしたちを不思議な世界へと誘います。

驚異的な集中力で、心のままに

GAMONさんは、1999年、広島県生まれ。広島県にある一般社団法人HAP-labに在籍しています。絵を描き始めたのは15歳のころ。施設の本棚にあったルネ・マグリットの作品集を熱心に眺めているうちに想像力に火がついたのか、突然、絵画制作を始めたそうです。

制作スタイルの特徴は、切り替えと集中。GAMONさんは、食べることが大好きで、まず腹ごしらえをしてから制作に取り掛かります。しっかりとエネルギーチャージした後の集中力は驚異的。筆を持つと、無言で休みなく5、6時間も描き続けるといいます。

あまりの集中力で、周りの声が聞こえなくなることもしばしば。

下書きなしに、迷いなく、筆を重ねていきます。

何かをモデルにしながら描くのではなく、心のままに、色や線を重ねていくGAMONさん。その瞬間、GAMONさんの心の中にはさまざまな風景が浮かんでいるのでしょう。なんと、同時に4作品の制作を行うこともあるそう。どこまでも自由に、心のままに。GAMONさんの豊かな想像力は、わたしたちの凝り固まった「常識」をほぐしてくれるようです。

「無題」原画作品

躍動感あふれる線の動きと、鮮やかな色彩はまるで、太陽光のようでもあり、空を飛び交うプリズムのようにも見えます。

「無題」原画作品

一方こちらは、作品の世界に深く沈み込んでいくような、迷路の中に迷い込んでしまったような。複雑な空間へ、心地よく吸い込まれていくような気持ちに。


「無題」原画作品

こちらの作品には、鮮やかな色から受ける開放感と、幾何学的な造形の中に感じる世界の複雑さや奥深さを感じます。その不思議なバランスが、わたしたちをなんともユニークな思索の旅に連れ出してくれるよう。

いかがですか? GAMONさんの心の中の風景に触れると、わたしたちの心も、頭の中も、心地よく拡張されていく気がします。

きっと、言葉では表現できない何かを、わたしたちは交わしているのでしょう。

色へのこだわり

制作に使用するアクリル絵の具はGAMONさんが自ら調達しています。絵の具を買いに行くときは、ものすごいスピードで出かけて、ものすごいスピードで戻ってくるのだとか。一刻も早く制作に取り掛かりたい、そんな作家の熱量を感じるエピソードです。

新しい色の絵の具が出ると、すぐに試してみる研究熱心な一面も。新しい色への興味が、新たな印象を与える作品を生み出すきっかけにもなっているのだそう。

例えば、2022年に阪急うめだ本店で展示した時の作品は深い緑や茶色の多い、こんな色味でした。

そして2023年、日本橋三越本店で開催した催事「異彩の百貨店」の頃からは、ピンクやエメラルドグリーンなど、淡い色が増えて柔らかな印象に。

新しい絵の具を試す探究心から、作風に変化が生まれ、その度に、わたしたちはまた新たな想像の世界へ。その時々で変化していく、異彩作家の作風。作家の環境や心境の変化に思いを寄せ、その物語を知ることも、楽しみかたのひとつです。
2024年、最新の作品はこちら。また新たに進化した色彩の気配を感じます。パステルカラーとビビッドな色味が手を取り合うことで、柔らかさと強さが共存しているようにも見えます。現在のGAMONさんの心の中には、どんな風景が広がっているのでしょうか。

過去の作品を塗りつぶして新しい作品に

普段は、病院給食の食器洗浄スタッフのお仕事をしているGAMONさん。午前8時半にスタートするシフトなのにいつも6時半に家を出て、始業開始1時間前にはスタンバイをしているそう。その真面目な勤務態度に、同僚のおばさまたちからとても頼りにされているのだとか。

そんな真面目で几帳面な性格のGAMONさんですが、なんと「原画をなくしてしまう」ことがあるそうで……? 正確には、古くなったと感じた作品のキャンバスを再利用し、上書きしてしまうことがあるんです。

実は、オンラインストアにて販売していたメッセージカードに起用されている原画も、すでに存在せず、新たな作品として上書きされて生まれ変わっています。

アートで伝えるメッセージカード3枚セット|GAMON【旧ロゴ商品】

「資源を大切にしたいから」「どうしてもそこに描き足したいと情熱が湧いた……」といった意図があるのかと思いきや、本人は「前に描いた絵が、古くなってボロボロになっていたから、その上に描いた」とのこと。

ちなみに、同じアトリエの他の作家の作品の上に描くこともあるのだとか……。その人の絵を生かした形でも描くそうで、誰かの役に立ちたい、観る人を喜ばせたいというGAMONさんの気持ちの現れなのかもしれません。

「すごい場所(阪急うめだ本店)で展示してもらいうれしい」「絵を買ってもらえたのはすごいこと」と話すGAMONさん。この先、広島以外でも展覧会を開催できたらと夢を語ります。

多くの人に観てもらいたいという情熱を持ち、常に新たなものを取り入れて作品をアップデートしていくGAMONさん。その作品の下にはGAMONさんの「過去」までもが存在します。

いま、目の前の作品を味わいながら、時間軸にも思いを馳せてみる。そのたびに、GAMONさんの作品はわたしたちに新鮮な発見と感動を与えてくれるでしょう。

GAMONさんご本人が作品を解説

先月まで岩手のHERALBONY GALLERYにて開催されていた、GAMONさんの企画展「心象風景 ⁄ Imagined Landscape」の会場に、広島からGAMONさんとお父様がいらしてくださいました。

来場を記念して、公式Instagramにて、GAMONさんご本人による作品解説のインスタライブを実施。
印象的だった解説を、いくつかご紹介します。

こちらは「花」をイメージして描かれた作品。と言っても、実際の花を見て描いているわけではなく、GAMONさんの心の中にある風景やイメージを元に、描かれているそう。

サイコロやトランプのようにも見えるこちらは、「昆虫」をイメージして描かれた作品。この中には葉っぱや、時計のようなイメージもあるとのこと。心象風景を描くGAMONさんならではの世界観です。

冒頭にご紹介したこちらの作品、GAMONさんのイメージは「計画」でした。

実はGAMONさん、普段はご自身が描くアートについて、自らお話しされることはほとんどないそう。自身の作品がたくさん飾られているギャラリーという場所に刺激されて、「多くの人に自分の作品を観てもらいたい」、あるいは「配信を観てくれている人を喜ばせたい」。そんな想いでたくさんお話ししてくださったのかもしれません。

この時のGAMONさんの貴重なお話は、HERALBONY GALLERYの公式Instagramにてご覧いただけます。

>動画はこちら(公式Instagram)

また、こちらで紹介されていた原画は、現在オンラインストアにてご購入いただけます。
ぜひ作品をじっくりご覧になってみてください。

>原画作品一覧こちら

GAMON

施設の本棚にあったルネ・マグリットの作品集を熱心に観ていたことが転機となったかどうかわからないが、15 歳頃からいきなり絵画制作を始める。幾何学的な造形と特徴的な色彩感覚でキャンバスを埋め尽くす。一つひとつの線や形を驚異的な集中力で描き、描いている最中は一切話もせず、その集中力は周りが騒がしくても気にもとめず、一心不乱。どこかエスニックでありながらどこかモダン的でもある彼の摩訶不思議な作品群は、老若男女幅広い世代の視線を集める。描いたアートを多くの人に見てもらうことが彼の喜びである。